2019年07月15日号
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artscapeレビュー

2014年12月15日号のレビュー/プレビュー

岡田敦「MOTHER」

会期:2014/11/08~2014/11/30

Bギャラリー[東京都]

岡田敦の新宿・Bギャラリーでの写真展を見て、写真作品の教育的な意味ということについて考えた。今回の展示作品は、2008年に撮影されたもので、一人の女性の出産の場面を克明に追い続けている。赤ん坊が妊婦の産道を通って、生まれてくる過程は、普通はなかなか見ることができないものだ。血と羊水にまみれて産声をあげる生々しいその姿に、思わず目をそむける人もいるだろう。だがアーティストの中には、人間の誕生と死の場面を、タブーとして覆い隠しておくことに疑問を持つ者もいる。岡田もその一人であり、今回の写真展と柏鱸舎からの同名の写真集の刊行は、果敢なチャレンジといえる。
特に若い世代の観客にとって、このような場面を目にすることは、大事な“学び”の機会になるのではないだろうか。実際に、岡田は早稲田大学で開催された講演会で、このシリーズを学生たちに見せたのだという。その時の反応の一部が、写真展のリーフレットに再録してあった。それらを読むと、学生たちが出産の場面を「自分が生きている世界に、現実に、本当に起こっているのはこういうことなんだなと感じた」、「生を通して死を考えてしまいました」などと、真剣に、ポジティブに受けとめていることがよくわかる。それはまさに写真の教育的効果というべきではないだろうか。
展覧会の会場構成について、やや疑問が残ったことがある。スペースの関係で、写真集に収録した写真を全部見せるのはむずかしいので、画像をモニターでスライドショーの形で流していた。そのことが、プリントのインパクトを弱めてしまっているように感じた。さらに、おそらく同じ女性モデルの写真と思われる、写真集に未収録のヌード写真が何点か展示されていた。それらが「MOTHER」シリーズとどのように関わっているのかが、すっきりと見えてこない。今回は展示も単純に出産の場面だけに絞った方がよかったのではないだろうか。

2014/11/11(火)(飯沢耕太郎)

小谷元彦 「Terminal Moment」

会期:2014/11/11~2014/12/14

京都芸術センター[京都府]

新作《Terminal Impact(featuring Mari Katayama"tools")》は、3スクリーンの映像作品。シーンを定点によるカメラワークで、鑑賞者側には映像で使われているセットが配されており、反復される重々しい機械音によって、現実の風景と交差する鏡写しの世界へと誘われる。「身体」「欠落」をテーマにしつつも、彫刻作品としての概念を映像へと落とし込むことで、軽やかさとしなやかさのあるインスタレーションに。

2014/11/11(火)(松永大地)

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TWSエマージング2014

会期:2014/11/01~2014/11/24

トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]

基山みゆき、宮岡俊夫、佐々木成美の3人の個展。3人とも絵画だが、それぞれ持ち味が違っておもしろい。基山は「生命」をテーマに動植物らしきものを描いてる。薄く溶いた絵具でもやっと仕上げて、どこかユーモラスだ。宮岡はプールやテニスコートらしき風景をざっくり描いている。タイトルも《Landscape -pool-》だったりするが、水面も植物も一様な色面で構成し、一部を余白にしたり天地逆にして制作したり(絵具の滴りが上に流れている)して、「風景」ではなく「絵」をつくろうとしてることがわかる。佐々木は一見ピカソ風の線描を主体とした人物画が多いが、部分的に絵具をてんこ盛りにして見る者の視線を惑わせる。うまいなあ。トサカをつけた陶器や描きながらコマ撮りした油絵アニメも出品。みんないい仕事してますねえ。

2014/11/11(火)(村田真)

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国宝鳥獣戯画と高山寺

会期:2014/10/07~2014/11/24

京都国立博物館[京都府]

2013年春に保存修理が完了した京都の高山寺に伝わる国宝の絵巻《鳥獣人物戯画》全四巻と高山寺にまつわる文化財が展示された特別展。会期中、《鳥獣人物戯画》は前期と後期で一部展示作品と展示場面の変更が行なわれた。私が訪れたのは後期の展示。噂には聞いて会場に足を運ぶ前から気構えていたが、到着した開館時刻にはすでに長蛇の列。入館まで「90分待ち」という看板表示を見て、館のゲート前でさっそくげんなりしてしまった。それからも続々と人々が押し寄せ、私が館内に入場する頃には外は「180分待ち」に。このような展覧会に来る度に、長い待ち時間はどうにかならないものなのかと思う。特に高齢者が多く見うけられた今展、寒い屋外で立ちっぱなしのお年寄りが気の毒で苛立たしさも募った。館内は想像したよりも混雑しておらず、わりとゆっくりと見ることができる資料もあった。個人的に特に興味を引かれたのは高山寺の中興の祖とされる明恵上人が40年にわたって書き記した《夢記》。来場者みんなが一番目当てにしていただろう《鳥獣人物戯画》甲・乙・丙・丁の四巻の展示ケース前はいずれもまた行列をつくっていて、さらに「立ち止まらずに進んでください」と近くに立つスタッフに大きな声で繰り返されるから酷いものだった。まるでベルトコンベアで流(さ)れるように絵巻の前を通り過ぎただけで、鑑賞どころか見たとすら言い難い。修理に至るまでは別の絵巻を繋いだものと考えられていた丙巻の前半と後半は、もともとは一枚の紙の表と裏に描かれており、表裏二枚に剥がされた後に一枚に繋ぎ直されたものであることが明らかになったという。この修理に際する新発見を解説した会場のパネル展示も興味深く、実物を目にするのを楽しみに待っていたのに残念。全体に見応えのある内容だったはずだが、虚しさの方が強かった展覧会。


公式サイト:http://chojugiga-ten.jp/

2014/11/12(酒井千穂)

奇想天外!浮世絵師歌川国芳の世界

会期:2014/10/24~2014/11/24

美術館「えき」KYOTO[京都府]

幕末期に活躍した浮世絵師、歌川国芳。人が集まって顔を形づくっている寄せ絵、擬人化された金魚や猫が登場する絵などのユーモラスな代表作はよく知られている。それらの作品を含め、武者絵、戯画、美人画、風景画、肉筆画など、155点が展示された。人間、妖怪、クジラ、猫や魚類などの数々のモチーフも、描かれたそれらのシーンも愉快なものが多いが、今展で私が何よりも感動したのはダイナミックで斬新な構図。圧倒的な迫力を感じるいくつもの作品に目を奪われた。特に金太郎が大きな鯉を両手で持ち上げている《坂田怪童丸》は、水しぶきが上がる瞬間の表現や、足を踏ん張って鯉を掴む怪童丸の表情、鯉が跳ね上がる躍動感が凄い。展示のボリュームもさることながら、国芳の想像力と表現力、鋭い洞察力を思い知った見応え充分の展覧会だった。

2014/11/12(酒井千穂)

2014年12月15日号の
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