artscapeレビュー
2009年01月15日号のレビュー/プレビュー
「都市を語る」(ヒルサイドカフェ連続セミナー)
会期:12月19日
ヒルサイドカフェ[東京都]
ヒルサイドライブラリーができたことがきっかけにはじまった、ヒルサイドカフェでの連続セミナー最終回。槇文彦、川本三郎、池内紀、植田実、篠山紀信、北川フラム、五十嵐太郎による「東京」のリレー形式のレクチャー。最終回は篠山×北川×五十嵐。篠山の発言が面白かった。懐かしい路地風景に興味はないとし、善悪を越えて東京が異様になっていることを楽しむという、超ポジティブな東京視線を提示した。バブル期の篠山の作品集『TOKYO NUDE』では、高崎正治の《結晶のいろ》という一度も使われずに破壊されることになったポストモダン建築のなかでモデルを撮影していた。篠山は「俺の写真に残るためにできた建物」といっていたが、確かに、スクラップ・アンド・ビルドの激しい東京においては、建築と東京の究極の関係を示唆していて興味深い。
2008/12/19日(金)(五十嵐太郎)
田井幹夫/アーキテクト・カフェ《KEELS》オープンハウス
[東京都]
田井幹夫/アーキテクト・カフェによるコーポラティブ・ハウスのオープンハウスへいった。四谷の塔状住宅。構造・採光・通風・設備を担う複数の塔の周りにプランの異なる9つの住宅。ディベロッパーはアーキネット。赤いインテリアだったり、DJテーブルがあったり、それぞれの住戸に特徴があり、今後、居住者がお互いに訪問したら面白いだろうと思う。今回、オープンハウスで複数の住居を同時に見ることができたのは特殊な面白さだった。これも金比羅アートでの複数の客室を見る体験に似ている(オープンハウスは、通常、建築の竣工直後に一度きりしかない)。個人的には《KEELS》の横の、廃校となった小学校を利用した「東京おもちゃ美術館」も興味深かった。寄贈されたおもちゃなどを見ることができる。この元小学校の運動場があるために、《KEELS》には将来的にも視界が確保されている。
2008/12/20(土)(五十嵐太郎)
第8回文化資源学フォーラム
会期:12月20日
東京大学本郷キャンパス法文2号館2大教室[東京都]
東京大学の木下直之研究室が2001年から開催しているフォーラム。大学院の講義で、学生に半期で何でもよいと企画をやらせ、その組み立ても自由。8回目の今年は展覧会とも組み合わせ、高速道路や東京タワーなど高度経済成長期の東京景観を再考するということで、五十嵐の講演では『ALWAYS』批判などを行なった。東京タワーは1958年完成のテレビ塔で、ちょうど開業50周年を迎えた。たまたま建築と映画の本を書いていてなるほどと思ったのだが、50-60年代はまだ娯楽が少なく、、映画が全盛だった。そのころにテレビ放送が開始され、映画が衰退していく。だからテレビというメディアを象徴する東京タワーは、映画を衰退させたシンボルでもある。しかし一方で、東京タワーの入場者数は2000年には最盛期の半分にまで落ち込んでいた。それを復活させたのは『ALWAYS 三丁目の夕日』やリリー・フランキーの『東京タワー──オカンとボクと、時々、オトン』など、映画と小説であったのは皮肉だ。
2008/12/20(土)(五十嵐太郎)
HARAJUKU PERFORMANCE+SPECIAL:1日目 「サウンド&ビジュアル」
会期:2008/12/20
ラフォーレ原宿[東京都]
日本パフォーマンス/アート研究所代表でキュレイターの小沢康夫が仕掛けたイベントは、パフォーマンスの次代を占うのに格好の場だった。タイトル通り、初日は聴覚と視覚とを同時に刺激する演奏者が集まった。ドラムをコントローラーにしてスクリーンに映るゲームを行なうd.v.dは、演奏と操作のインタラクティヴィティを活用して、画面上のマッチ棒みたいなダンサーを踊らせた。魂の込もるというか魂を込める演奏。DE DE MOUSEは絶妙トークを封印して、薄っぺらい「雰囲気としてのジャパン」を見せ聴かせた。音響と画像を連動させることによって、観客の聴覚ばかりか視覚も奪う演奏者は、その程度に応じて場の支配者の様相を帯びてゆく。とくにそう感じさせたのは渋谷慶一郎。爆音のテクノなノイズとシャープな立体が変化を続ける画像とに聴覚と視覚は支配され、崇高さと恐怖とを感じてただひたすら身体が圧倒され続けた。高木正勝の画像もダーク色の濃いゴシックテイストで、スクリーン上の子どもや馬の体はエレクトロニックに溶解や屈折や消滅を繰り返した。恐ろしく残酷でそれでいて美しくもある映像に優しくエモーショナルな生演奏が組み合わされることで、癒しともホラーともつかない、しかし強い説得力を感じさせた。その他、RADIQ(a. k. a半野喜弘)の演奏もあった。
写真:高木正勝のパフォーマンス
2008/12/20(土)(木村覚)
益村千鶴「Esperanza」
会期:12月9日~12月28日
neutron[京都府]
あいにく私は見逃したけれど、2005年の大阪のベルギーフランドル交流センターでの展示が出会いのきっかけとなり、京都では初めてのこの発表に至ったのだと聞いた。作品を見るのは今回が初めてだが、どこかで手に取ったそのときのDMがとても印象に残っていて、会場で過去の作品ファイルを見ていてすぐにその記憶がつながった。3年も前の、しかも見ていない展覧会のDMなんてほとんどは覚えていないものだが、それだけ益村の作品は強いのだと思う。さらっと軽いタッチの作品や、脆弱でふわふわと浮遊するような薄いイメージの、最近よく見かける絵画とは完全に一線を画している。画面に深く堆積する色の重厚感と、時間が止まったような静謐な雰囲気は、観る側との空気を分ける固い印象で緊張感が漂っている。しかし、同時にモチーフの滑らかな質感や輪郭、鈍い色彩の世界が美しく、全体的にどの作品も、明け方や夕暮れ時の空の色がゆっくりと移り変わっていくさまのように視線を惹きつける。神々しいという言葉も浮かんでくる圧倒的な魅力があった。
2008/12/21(日)(酒井千穂)