artscapeレビュー

2009年01月15日号のレビュー/プレビュー

中村協子 展:初級英会話レッスン

会期:12月1日~12月28日

STREET GALLERY[兵庫県]

大阪でも個展を開催中だが、住吉の駅前の通りの小さなウインドウギャラリーで中村協子が発表している。顔のない人物の頭部を描いた同じ図版が21枚並び、一枚ずつに「what is this?」とか「his name is Mike.」とか、昔教科書で見た英語のフレーズが書き込まれている。必然的に言葉と絵との脈絡を掴もうとしてあれこれ考えてしまうが、それを考えるほどにイメージは掴めなくなって、わけがわからなくなってしまう。作品自体というよりも、そんな作家の目論みにまんまとハマる自分が可笑しい。馬鹿馬鹿しくて、知的なセンスがいつも光っていて、新しい発表を見に行くたびに中村協子のファンになっていく気がする。

2008/12/24(水)(酒井千穂)

レム・コールハース:ア・カインド・オブ・アーキテクト(DVD)

[東京都]

レム・コールハースのドキュメンタリー映像。生い立ちから最新作の《CCTV》や建築以外の活動までを網羅的に紹介。異常に密度が高く、細々としたエフェクトなど映像としての手数も多く、情報量の高さ自体がコールハース的。コールハースを知らない人には教科書にもなるし、知っている人にとってもマニアックでレアな映像が多い。きっと売れるDVD。実際、ジャーナリストの頃に関わった映像作品や、シチュアシオニストのコンスタント・ニーベンホイスへのインタビューに影響されたことなどはあまり知らず、勉強になった。普通の建築ドキュメント映像に比べて変わっているのは、動線にそって空間体験を追体験させるような常識的な紹介が、ベルリンの《オランダ大使館》以外にはないところ。コールハースを通常の建築家として扱えないことは、タイトルにも現われている(一種の建築家)。浅田彰はコールハースをメディア・アーキテクトといったが、それでいえば、ル・コルビュジエ、アンドレア・パラディオの系譜につらなる。ル・コルビュジエは自らと近代建築を、メディアを利用してプロモートしたし、パラディオは、アルベルティと違い、建築書ではじめて自作を紹介した建築家。 ところで、同じアップリンクから、もう一枚今年発売される予定のコールハースに関するDVD『ハウス・ライフ』は、《ボルドーの住宅》を舞台に、家政婦の視線でひとつの建物を延々と撮った映像。このスロープをジグザグに上がると簡単だとか、ぶつぶつと家政婦の文句があったりする。ひとつの建物だけをくどいくらい紹介するという意味で、『ア・カインド・オブ・アーキテクト』とは真逆の視線だが、やはりいわゆる建築的な紹介作品ではなく、アーティスティック。

2008/12/24(水)(五十嵐太郎)

森山大道「HOKKAIDO」

会期:12月19日~2月8日

RAT HOLE GALLERY[東京都]

森山大道は1978年5月から約2ケ月間北海道に滞在し、道内をあてもなくさまよいながら撮影を続けた。当時「名状しがたい不安」「欠落感」を抱え込んでいた彼は、「よし、もう一度日本中を見てやろう」という決意を固め、その最初の場所として北海道を選んだのだった。以前から明治時代に北海道開拓使の依頼で田本研三らが撮影した「北海道開拓写真」に惹かれるものがあり、彼らの記録写真と「もしかしたらある一点で、時間を超えてクロスすることができるかもしれない」(「写真記『北海道』」『新アサヒカメラ教室2』朝日新聞社、1979)というのが動機だったという。
結果的には「撮れば撮るほど、北海道の地が際限なく広がっていくような」無力感に捉えられるばかりで、思うような成果は得られなかったようだ。日本全国をもう一度しらみつぶしに撮り直してみるという計画も、結局北海道だけで挫折してしまう。だが今回RAT HOLE GALLERYで、初めて展示されたこの時の写真を見ると、森山が既にスナップシューターとしての揺るぎない眼差しを備えており、自分の体質に即した写真のスタイルを確立していることがよくわかる。特に大地に根ざした女性たちの姿を捉えた写真群には、森山の初期写真を特徴づけていた荒々しい苛立ちの身振りに代わって、「演歌的」とでも言いたくなるような安らぎを含み込んだ叙情性がはっきりとあらわれてきている。一般的には「大スランプ」の状態にあったとされるこの時期の森山の、写真家としての底力をあらためて感じさせてくれる充実した展示だった。

2008/12/25(木)(飯沢耕太郎)

ジム・ランビー:アンノウン・プレジャーズ

会期:12月13日~3月29日

原美術館[東京都]

床にテープがストライプ状に張られているという手法は、2007年の東京オペラシティアートギャラリーでのMelting Point展や十和田市現代美術館のチケットカウンター部分の常設展示にも見られるジム・ランビーおなじみの手法。しかしここではカーブした廊下という原美術館の形態にあわせ、円弧型を組み合わせたパターンにテープを貼る。模様は展示室だけでなく、階段、踊り場なども覆い、特に階段では滝が流れているかのよう。展示室では、微妙に開いたフェイクの扉をインスタレーションし、そこにも立ち上がって円弧パターンが覆い尽くす。建築と美術がうまく絡んだ、サイト・スペシフィックな展示だといえる。

2008/12/27(土)(五十嵐太郎)

井坂幸恵/bews《kamizono place》

[東京都]

井坂幸恵さんの《kamizono place》を見る。あいにく、オープンハウスの都合がつかず、翌日だったため、外観のみ。いかにも東京らしい混み入った狭小の敷地で、針の目に糸を通すように、鉄骨の軽やかな集合住宅を挿入している。構造は佐藤淳。

2008/12/28(日)(五十嵐太郎)

2009年01月15日号の
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