artscapeレビュー

2009年01月15日号のレビュー/プレビュー

公衆無線LAN普及の鍵は? ハンバーガーとiPhoneと…

インターネットが浸透し始めた21世紀初頭、公衆無線LANは近いうちに爆発的に広まるかと思いきや、現実はこれまで遅々として進んでこなかった。とはいえ、公衆無線LANを望むユーザーは潜在的に増えており、またそのために必要な通信環境は整ってきたといえよう。ネットブックやスマートフォンは、公衆無線LANの利用によりさらに本領を発揮するだろう。ソフトバンクモバイルは、こうした利用者のニーズを先取りするかのように、iPhone 3Gユーザーに「公衆無線LANし放題」(BBモバイルポイント)を無償提供することを昨年11月に発表。これにより、iPhoneで、マクドナルドの店舗、JR駅構内、空港、カフェなど、全国約3,500カ所のアクセスポイントで無線LANを利用したインターネット接続が可能になる。2008年の携帯電話契約数で、Softbankは、純増数の面で、docomoとauを抑え一位に輝いた(累計契約数、2,000万件を突破)。iPhoneは、Softbankの端末のなかでも常に上位に位置しており、iPhone投入はSoftbankの業績好調に少なからぬ影響を与えている模様である。公衆無線LANのサービスの充実度は、まだまだ地域によって格差が激しい。しかし、着実に増えてきているのは確かである。それにより、私たちのネットライフスタイルは少なからず変わっていくはずである。また、それに応じた新たな製品とデザインが登場するだろう。

ソフトバンク BBmobileネットワーク
47News
ソフトバンク 累計契約数2,000万件

2009/01/14

「クオーター・パウンダー」(マクドナルド)のデザイン戦略

基本はチーズバーガーで牛肉パテが通常の2.5倍、重量にして約113gとなったマクドナルドのスペシャル・メニュー「クォーター・パウンダー」が現在、地域限定販売されている。クォーター・パウンダー」というメニュー名は、過去にもまた日本以外の国でも使われたことがある。今回の日本での展開で特筆すべき点は、入念に仕組まれたイベントの実施とともにデザイン性の高いグラフィックデザインを駆使した大胆で緻密な告知戦略である。まず11月に「マクドナルド」名を出さずに「クォーターパウンダー」というショップを東京・青山に出店し、既存のマクドナルド・ハンバーガーとの差別化を図った。メニューのロゴや店舗のデザインは、たとえば、HMVやTOWER RECORDSなどのお洒落なレコード販売店のグラフィックに通じる黒と赤を基調にした大胆なデザインを採用しており、従来のファミリー路線とは一線を画している。グラフィック媒体に用いられるコピーには挑発的な言葉が並ぶ。たとえば「ハンバーガーをナメているすべての人たちへ」など(その色使いや挑発的なメッセージは、現代美術のバーバラ・クルーガーなどのメッセージ性の高い作品を彷彿とさせる)。現在では、地域限定で普通のマクドナルドの店舗でも売られているが、そのクルーのユニフォームの背にはその言葉がプリントされている。この現象をどう見るべきか? 昨年、マクドナルドは100円の「プレミアム・ロースト・コーヒー」を出して、その価格と味の良さで業界を震撼させた。同様に、「ジャンク」なイメージを払拭し、実質的な「食事」のアイテムとして定着させようというプレミアム路線が垣間見える。「ハンバーガーをナメている……」という挑発的なメッセージは本音のメッセージであろう。もちろん味とサービス、そして価格が伴わなければ、消費者は納得しない。その挑戦的な姿勢こそが、熾烈な外食戦争のなかで、マクドナルドに勝利をもたらしている理由なのである。それは企業のデザイン力の問題でもあるのだ。

クォーターパウンダー公式サイト
クォーターパウンダー メニュー情報

2009/01/14

複々製に進路をとれ 粟津潔60年の軌跡

会期:1月24日~3月29日

川崎市市民ミュージアム[神奈川県]

2009年、丁度80歳になるグラフィックデザインの鬼才、粟津潔(1929~)の60年間にわたる芸術活動を振り返る展覧会が開催される。粟津潔は、戦後日本のグラフィックデザインの革新者のひとりであるが、映像、写真、環境デザイン、ペインティングそして執筆という活動の多面性という点で、戦後日本の代表的デザイナーのなかで頭抜けている。粟津潔に関しては、近年、金沢21世紀美術館で「荒野のグラフィズム:粟津潔展」[2007年11月23日~2008年3月20日]が開催されたばかりだが、金沢展が、絵画や素描などを含めて粟津のグラフィックの仕事を中心において展示していたのに対して、川崎での展示は、粟津の仕事の多面性により力点を置いて時代の推移とともに変貌していった活動を総合的に紹介する。

展覧会タイトルの「複々製に進路をとれ」は、一万円札の複製を展示して物議を醸した赤瀬川原平の言葉である。戦後60年代から70年代にかけてわが国を覆った、複製と複製の複製が現実を埋め尽くす新たな社会状況での芸術的な戦略を指し示す言葉である。ヴァルター・ベンヤミンのいう複製技術時代の次に到来した新たな複製メディア状況を象徴する言葉であった。粟津は、デザイナーとしてかかる状況を引き受け、そして駆け抜けることで独自のデザインワークを進めて行ったと言える。そのダイナミズムを確かめる展覧会となるだろう。

展覧会詳細
http://www.kawasaki-museum.jp/display/exhibition/exhibition1.html#awazu

 

2009/1/14(水)

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