2021年09月15日号
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artscapeレビュー

2009年01月15日号のレビュー/プレビュー

甦る中山岩太──モダニズムの光と影

会期:12月13日~2月8日

東京都写真美術館3F展示室[東京都]

柴田敏雄展と同じ日にオープンした中山岩太展。こちらは1910~20年代にニューヨークとパリに居を定めて活動し、帰国後は兵庫県芦屋にスタジオを開設して、日本の戦前のモダニズム写真の中心人物となった中山岩太(1895~1949)の回顧展である。まったく対照的な企画だが、両方見ると写真表現の位相の広がりを感じることができる。目と頭を切り替えるのが大変そうではあるが、逆にちょっと得をしたような気分になるかもしれない。
ポスターやカタログの表紙にも使われている煙草をくゆらす女性のポートレート「上海から来た女」(1936年頃)は、一度見たら忘れられないような強い印象を残す作品である。物憂げな表情、光と闇の強烈なコントラスト、外人のダンサーをモデルにしているので、時代や撮影場所を特定できない不思議な時空間に落ち込んでいくように感じる。この作品も含めて、中山は常に美意識をぎりぎりまで研ぎ澄まし、外遊中に身につけたデカダンスの感覚を写真に刻みつけようとした。「私は美しいものが好きだ。運悪るく、美しいものに出逢わなかつた時には、デッチあげてでも、美しいものを作りあげたい」。彼は1938年にこんな言葉を書き残している。このような強烈な耽美主義は、戦争の泥沼に沈み込んでいこうとしていた時代においてはきわめて稀なものといえるだろう。
今回の展示は代表作55点によるものだが、そのなかには1995年の阪神・淡路大震災で、芦屋のスタジオが倒壊した時に救い出されたネガから、新たにプリントされた作品も含まれている。プリンターはラボテイクの比田井良一。劣化したネガからいかに情報を最大限に引き出して、オリジナルに近づけるか、その技術力の粋が凝らされている。あらためてモノクロームの銀塩プリントにおける、プリンターの役割の大きさを感じさせてくれた展示だった。

2008/12/12(金)(飯沢耕太郎)

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琴平プロジェクトこんぴらアート2008・虎丸社中

会期:12月12日~12月14日

虎丸旅館/琴平町公会堂[香川県]

近ごろホテルの客室を使ったアートフェアはよく見かけるが、旅館の和室を展覧会場にする試みはあまり聞いたことがない。これは、こんぴらさんで知られる金刀比羅宮の参道の虎丸旅館と、その近くの重文級の琴平町公会堂を舞台にした展覧会。出品は彦坂尚嘉、吉峯和美、糸崎公朗、廣中薫、澤登恭子ら19組。こうした展覧会の場合、ほかの場所でつくった作品をもってきて展示するだけでは、わざわざ見に行く価値がない。やはり琴平町という地域性や、旅館の部屋という空間性を生かしたサイトスペシフィックな制作が望まれるが、そういう作品はごくわずか。とはいえ、たとえば吉峯の作品は、17世紀オランダを思わせる油絵で和風旅館とはミスマッチなのだが、意外なことに大きさといい色合いといい図柄といい、和室にぴったり合う。一方、天井板にトマトやナスの模型を貼りつけた彦坂の作品は、若冲の天井画からヒントを得たのかと思ったら、ぜんぜん関係ないという。もっとも天井画は金刀比羅ではなく京都のお寺にあるのだが。いずれにせよ「今年はパイロット展」というから、次の展開を期待したい。

2008/12/13日(土)(村田真)

エモーショナル・ドローイング

会期:11月18日~12月21日

京都国立近代美術館[京都府]

入館したらちょうど本展を企画した東京国立近代美術館学芸員の保坂氏と、信州大学人文学部准教授の金井氏との対談が始まるところだったので聴いてから会場に入ることにした。見ることや解釈することよりも、感じることのほうを重視するという趣旨のもとに構成された今展の出品作家の説明から、予備校教育の歴史から考察する美大受験用デッサンの傾向とその変遷、ドローイングという言葉の枠組みの問題など、2時間程のトークの話題は幅広く、たいへん興味深い内容だった。その分改めて展示作品を見ていくと、なぜここでこれが「ドローイング」として扱われるのかと考えてしまうものも。全体的には、イメージが言葉と結びついていったり連想が広がる魅力的な展覧会だと思ったが、同時にどこか腑に落ちない消化不良のようなモヤモヤ感が残った。そんな未消化の気分や余韻もあるが、それだけに、今後また同テーマでの新たな展開があるならばぜひ見てみたい。

2008/12/13(土)(酒井千穂)

他のお客様の迷惑となりますので、展示室ではお静かにご鑑賞ください。

会期:9月13日~1月14日

広島市現代美術館[広島県]

展覧会名とは思えないタイトルだが、要するに騒がしい作品を集めたコレクション展。といっても、実際に動いたり音が出たりする作品は、ナム・ジュン・パイクのビデオ彫刻や田中功起の映像、たべけんぞうのキネティックアートなど数点しかなく、大半は田中敦子や横尾忠則らのハデハデの絵画や、篠原有司男や草間彌生らのゴテゴテの彫刻で占められている。たしかに騒がしい作品だけど、「他のお客様の迷惑」にはならないぞ。どうせなら展示室でドンチャン騒ぎしてみるとか。

2008/12/14(日)(村田真)

琴平プロジェクトこんぴらアート2008・虎丸社中

会期:12月12日~12月14日

老舗旅館「虎丸旅館」及び木造和風建築「琴平公会堂」[香川県]

美術家の彦坂尚嘉が金比羅で旅館を使ったアートイベントに参加するというので、そのトークに出席した。金比羅の上のほうでは鈴木了二の建築や、田窪恭治の襖絵があるなどハイ・アート的であるのに対し、今回は下のほうで違うかたちのイベントをやるという。ギャラリー・アルテという四国のギャラリーの女性ギャラリストが企画し、とら丸という旅館の各部屋に展示。宿泊施設をアートの展示に使うのは、東京のアグネスホテル、大阪の堂島ホテルなどでもあり、ベッドや浴室にアートがあったり、少しずつ間取りの違う同じフロアの部屋をすべて見たりする機会は、修学旅行でもないとできない体験。単純にアートがどうこういうより経験として面白い。 今回はその旅館版。木造和風の旅館で、日本の旅館に典型的な、でたらめな増改築がされたプラン。例えば2階に上がるのに四カ所くらい変なところに階段がついている。作家のなかにはその特性をうまく使う人と使わない人がいて、彦坂さんは結構うまく使っていた。二つの会場での展示があり、客室では天井にナスやトマトのオブジェ。彼の初期の作品はフロアー・イベントという床の作品だっただけに、面白い展開。他の作家と違い、床を占有しておらず、そういう意味だと興行的にもあり得る。もうひとつ公会堂でやっていたのは、皇居美術館空想の展開。ちょっとした体育館くらいの広さの空間の真ん中に、存在感のある皇居美術館の模型が置かれる。またその延長である帝国美術館空想も一部紹介。隣に糸崎公朗のフォトモの作品があり、壮大でグローバルな展開の彦坂さんと、ミクロな観察眼で虫や町並みの観察を行なう糸崎さんの展示が対照的だった。

2008/12/14(日)(五十嵐太郎)

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