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2015年10月15日号のレビュー/プレビュー

フィルハーモニーの室内楽ホール

[ドイツ、ベルリン]

ベルリンに戻り、フィルハーモニーの室内楽ホールへ。大ホールよりひとまわり小柄で、全体をワインヤード状の座席で囲い込む形式や、階段が徐々に分岐していくデザインはそっくりだが、実はシャロウンの設計ではない。ピアノ四(五)重奏だったが、主役のピアニストはなぜ漢字を刻んだ学ランみたいなヤンキー服を着ていたのか、ずっと気になった。

2015/09/22(火)(五十嵐太郎)

伊奈英次『YASUKUNI』

発行所:Far East Publishing

発行日:2015年8月15日

伊奈英次が靖国神社を撮るのは意外なことではない。というのは、彼には既に全国各地の天皇陵を長期間にわたって撮影した労作『Emperor of Japan』(Nazraeli Press, 2008)があるからだ。
だが、デビュー作の「都市の肖像」(フォトギャラリー・OWL、1981年)以来、これまでの主に風景写真的なアプローチで撮影した写真を見慣れてきた者にとっては、今回の写真集にはかなりの違和感を覚えるだろう。伊奈が1989年から続けているこのシリーズで、彼がカメラを向けているのは、靖国神社の境内に群れ集う人物たち(やはり右翼、愛国者といった人たちが多い)だからだ。アプローチとしては典型的な「社会的風景」を志向するスナップショットであり、一癖も二癖もありそうな人物たちが、モノクロームの中判カメラでくっきりと切り出されている。
伊奈のこの撮影対象と手法の変化は、むしろ靖国神社というテーマから必然的に導き出されたのではないだろうか。そこは建物や広場に意味があるのではなく、そこに集まってくる群衆のうごめきや、彼らが引き起こすイベントこそが重要なファクターになるからだ。とはいえ、伊奈は報道写真的なアプローチをめざしているわけではない。むろん「小泉首相の参拝」や「石原慎太郎都知事参拝」といった出来事も写してはいるが、その詳細を記録・伝達するというよりは、さまざまな要素がひしめき合うカオス的な状況こそが、伊奈の関心の的なのだ。アメリカ各地で開催されたイベントを撮影したゲイリー・ウィノグランドの名作『Public Relations』(1977年)のように、このアプローチを推し進めていけば、靖国神社以外に撮影対象を広げていくことも考えられそうだ。

2015/09/23(水)(飯沢耕太郎)

《バウハウス》

[ドイツ、デッサウ]

デッサウへ。この小さな都市から世界にバウハウスのデザインの理念や教育システムが広がったことを考えると感慨深い。一時は破損して、開口部が壁で埋められた時期もあるが、やはり被膜としてのガラス、階段室が相互に見える透明感が清々しい。室内は意外にカラフルだが、デ・ステイルの面としての色づかいとも違い、むしろ空間の効果を高めるような配色だった。校舎内の常設はバウハウスの概略、企画展では、ハンネス・マイヤーの協同への信条、教育、建築を紹介していた。

2015/09/23(水)(五十嵐太郎)

マイスターハウス群

[ドイツ、デッサウ]

徒歩圏に教員が暮らしたマイスターハウス群がある。失われていたグロピウスの家は、コンクリートでヴォリュームを再現していたが、当然ながら生活感はなく、現代建築のような空間になっていた。ほかはクレー、カンディンスキーら、アトリエ付き住居を2つ噛み合わせたユニットであり、これもそれぞれに少しずつ違う室内の色づかいが興味深い。

写真:マイスターハウス群。下は再現されたグロピウスの家

2015/09/23(水)(五十嵐太郎)

Don't Follow the Wind Non-Visitor Center

会期:2015/09/19~2015/10/18

ワタリウム美術館[東京都]

現在、福島県の「帰還困難区域」内で「Don't Follow the Wind」と題する展覧会が開かれている。出品作家はアイ・ウェイウェイ、小泉明郎、竹内公太、Chim↑Pom、宮永愛子ら12組。これは見たい、と思っても見に行けないのがこの展覧会の最大の特徴なのだ。といっても永遠に見られないわけではなく、封鎖が解かれれば見に行けるが、それがいつになるか、5年後か10年後か100年後か、だれにもわからない。そこで各地に随時サテライトを設けて同展の紹介をすることになったのが、このノンヴィジターセンターだ。国立公園の入口によくあるヴィジターセンター(案内所)みたいなもんだが、展示場所や作品内容など具体的な案内ができないので「ノン」がつく。ここでわれわれはどんな作品がつくられたのかを想像するわけだが、そのためにまず、帰還困難区域内はどうなってるのか、そもそも放射能とはどんなものかに思いを馳せざるをえなくなるのだ。「イマジン」、これが同展の最大の目的かもしれない。ノンヴィジターセンターでは3階が立ち入り禁止のサテライトスタジオになっていて、そこに関連作品を展示している。見るには2階の吹き抜けに建てたヤグラの急な階段を上らなきゃいけないが、見ても作品まで距離があるからよくわからない。また4階では、キュレーターやアーティストらのスカイプを使った会話を素材にした園子温によるドキュメンタリーを流している。

2015/09/24(木)(村田真)

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