artscapeレビュー

丸山純子 展 漂泊界

2015年01月15日号

会期:2014/09/20~2014/12/21

発電所美術館[富山県]

丸山純子は、スーパーのビニール袋で花畑をつくったり廃油からつくった粉石鹸で床に絵を描いたり、日用品をアートに転用することを得意とするアーティストである。今回の展覧会は、大正15年に建設された水力発電所を改装した美術館で、主に粉石鹸による絵画作品を発表した。
会場の広い床一面に、白い粉石鹸で植物の有機的なイメージが描かれている。会場に残された巨大なタービンや大きく口を開けた導水管の力強い存在感とは対照的に、描かれたイメージはきわめて儚い。粉石鹸というメディウムも、とくに定着を施しているわけではないので、ふとした瞬間に雲散霧消してしまいかねないほどだ。高い天井に恵まれた空間の容量が、イメージの儚さをよりいっそう際立てている。
この脆さや儚さは、ややもすると造形上の弱点のように見えかねない。空間と正面から対峙し、それに打ち勝つ志向性を心がけるアーティストであれば、あるいはそうなのかもしれない。だが丸山が目指しているのは、空間に垂直的に屹立する造形ではなく、おそらく空間に水平的に浸潤する造形である。もちろん、それは絵画的な平面に拘泥するという意味では、まったくない。
床一面に描かれた作品とは別に、粉石鹸を正立方体に固めた作品があった。天井から滴り落ちる水滴によって塊にいくつもの亀裂が走り、部分的に崩落していたから、来場者の視線は必然的に重力を意識することになる。かたちは、水と重力によって、かたちを失い、やがて水平にならされていく。丸山が見ようとしているのは、その水平面にかたちが浸透していく、まさにその造形のありようではなかったか。床一面に描かれた植物のイメージは、だから三次元の主題を二次元に置き換えて表現したというより、むしろ植物が土に還ってゆく、その過程の痕跡なのだ。
かたちを立ち上げる美術だけではなく、かたちが失われていく道程を見せる美術もある。丸山純子の作品に見られる儚さには、生物を成仏させる敬いが隠されているのかもしれない。

2014/12/05(金)(福住廉)

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