2021年04月15日号
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artscapeレビュー

浅葉克己のタイポグラフィ展「ASABA'S TYPOGRAPHY.」

2015年01月15日号

会期:2015/01/09~2015/01/31

ギンザ・グラフィック・ギャラリー[東京都]

日本グラフィックデザイン界の重鎮、浅葉克己の展覧会。出品作品は、新作のポスター、掛け軸、過去の仕事の版下のコラージュ、ワイドラックスというパノラマカメラで撮影したモノクロームの写真(一部にはエナメル塗料でポロック風のペイントがされている)。そして1階と地階の壁面には手書きの日記。これは2008年に21_21 DESIGN SIGHTで開催された「祈りの痕跡。」展(2008/7/19-9/23)に展示された「浅葉克己日記」の続き。2002年から2014年までの日記から各年70日分ずつがピックアップされているという。A4判サイズにブルーブラックのインクでびっちりとテキストが書き込まれ、しばしば新聞の切り抜きや展覧会のチケットが貼り込まれている。展示されている日記のすべてを読むことは困難なので、本展に合わせて出品された『浅葉克己デザイン日記 2002-2014』(グラフィック社、2015)で少しずつ読み進めたい。日記の横にはグラフィック作品が添えられているが、これらは抜き出した日記に合わせて選ばれたもので、内容や制作時期は必ずしも日記と連動していないことと、浅葉克己以外の仕事が含まれていることには注意されたい。
 過去の仕事の版下や写真原稿を貼り込んだパネルも興味深い。コピーライターの糸井重里と組んだ西武の「おいしい生活」や「不思議、大好き。」のポスター、アーノルド・アロイス・シュワルツェネッガーが出演したカップヌードルなど、浅葉事務所に保管されている過去の仕事の一部が10枚のパネルに再構成されている。いまではなかなか見ることができない手仕事の記録なのだが、展覧会の制作風景を追った映像(地階で上映)を見ると、写植を貼り込んだ台紙を切り貼りしていることがわかる。当初本展の企画担当者は版下をそのまま見せることを提案したものの、この形式での展示になったという(未来のデザイン史研究者はオリジナルのままで保存しておいてもらいたかったことだろう)。いまだに本人はPCを用いず手の仕事にこだわり続けている。それにも関わらず、生々しい手の痕跡を見せずに編集してしまうところは、浅葉克己が徹底してグラフィックデザインの人である所以であろうか。
 展覧会のタイトルは「ASABA'S TYPOGRAPHY.」。タイポグラフィを主題とした企画なのだが、展示にはこのように日記や写真が含まれていて、必ずしも文字のデザインだけではない。しかし全体を俯瞰すると、浅葉克己の仕事の軸に文字があることがよくわかる。さらに言えば文字というよりは書である。それは描かれたもの以上に印象的な余白の存在であり、縦書きを想起する画面の流れであり、墨書を思わせる抑えた色彩だ。形と、間と、濃淡によって豊かなメッセージを伝える手法は、それが文字そのものでなくても表意文字の世界といえよう。近年は薄墨による表現に凝っているということで、ポスターにも用いられている英文書体「わびさび体」はコンピュータで作成した輪郭と薄墨の組み合わせ。浅葉克己といえばトンパ文字などアジアの書、文字への傾倒が知られているが、ここではアジアの書と欧文タイポグラフィとの融合が試みられている。[新川徳彦]


展示風景

2015/01/09(金)(SYNK)

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