artscapeレビュー
闇の光 吉村朗の軌跡
2015年01月15日号
会期:2014/12/02~2015/12/07
Gallery LE D CO 3F[東京都]
2012年に亡くなった吉村朗の遺作集『Akira Yoshimura Works─吉村朗写真集』(大隅書店)の刊行にあわせて、東京・渋谷のGallery LE D COで作品展が開催された。吉村の部屋に残されたダンボール箱には500~600枚のプリントが残されていたという、それらは「分水嶺」、「闇の呼ぶ声」といったシリーズごとに袋に入れて分類され、他に「Akira YOSHIMURA」と記されたCDがあり、そのプリントは川崎市市民ミュージアムの深川雅文が保管していた。今回の写真展はその中から写真家の湊雅博、山崎弘義、大隅書店の大隅直人らによる「吉村朗写真展実行委員会」が78点を選んで構成したものである。
吉村のプリントは、特に後期になるに従って、白黒のコントラストや独特の手触り感を強調したものになっていく。カラープリントはスキャニングしてプリンターで出力しているが、そこにもかなり手を加えている。彼にとって、自分自身の感情や記憶でバイアスをかけたフィルターを通過させることで、現実世界を変容していくことは、作品作りの上で不可欠のプロセスだったのだろう。そこに解釈や意味付けにおさまりきれない、微妙なノイズが生じてくるわけで、それを味わうのはやはり展示されたプリントに直接向き合うしかない。吉村の写真家としての軌跡を丁寧にフォローする写真集とあわせて、今回の展覧会で、彼の作品をあらためて検証していくための道筋が定められたのではないだろうか。個の記憶と日本の近代史を交錯させようとする吉村の果敢な「実験」が、さらに大きな波紋を呼び起こしていくことを期待したい。
2014/12/04(木)(飯沢耕太郎)