artscapeレビュー
Yusuke Asai × ISETAN
2015年01月15日号
会期:2014/12/03~2014/12/25
新宿伊勢丹 2階[東京都]
百貨店の店舗内で催された淺井裕介の個展。レディースのショップが立ち並ぶ店内の一角に淺井のマスキングテープの作品が展示され、あわせてアメリカで発表した作品の制作過程を記録した映像も上映された。きらびやかな照明が、淺井の絵画をいつも以上に輝かせていたように見えた。
淺井の絵画の特徴は、支持体とイメージを一体化させながらイメージを拡張させていく点にある。通常はあらかじめ固定化された支持体の中にイメージを収めるが、淺井はマスキングテープを貼り重ねながら支持体を構成するので、原理的にはどこまでも拡大することができる。例えば、ほぼ同時期にアラタニウラノでの個展で発表された作品は、マスキングテープで構成した支持体が四方八方に伸び、床や天井、壁に接着していた。それはまるで支持体の中のイメージが空間の中で手足を突っ張って自立しているかのようだった。
それだけではない。支持体を一定の大きさに限ったとしても、淺井の描き出すイメージは往々にしてその枠外にはみ出していく。今回も、店内の白い壁や柱にイメージが溢れだし、百貨店内の光景としてはある種異様と言っていいほどの爆発的な増殖力が見せられていた。
地と図の反転。いや、地を地として残しつつ図が地を追い越していく。淺井の絵画の真骨頂は、イメージの疾走感である。自力で道を切り開きながら邁進する速度は、時としてイメージが道の先へと突出してしまうほど、速い。凡庸な絵画に飽き足らない私たちは、絵画というフレームを置き去りにするほどの圧倒的な速度にこそ、惹きつけられてやまないのだ。
だが、淺井の躍動するイメージを支える空間として、百貨店があまりにも小さすぎたことは否定できない。現代絵画の隘路を軽々と突き抜けていく淺井裕介に、その仕事にふさわしい空間を提供することが、専門家の務めではないか。
2014/12/20(土)(福住廉)