2021年04月15日号
次回5月17日更新予定

artscapeレビュー

渡辺淳の世界─スケッチ・静物・広告・報道─

2015年01月15日号

会期:2014/12/02~2015/12/24

JCII PHOTO SALON[東京都]

渡辺淳(1897~1990)は千葉県長生郡の天台宗の寺院に生まれ、写真館での修行を経て、シンガポールやインド・カルカッタで写真家として活動した。1920年に帰国後、中島謙吉が主宰する『芸術写真研究』誌への寄稿を中心に芸術写真家として活動するようになる。大正末から昭和初期にかけて発表された渡辺の作品は、まさに同時期の「芸術写真」の典型というべき作風であり、「雑巾がけ」(印画紙にオイルを引き、油絵具で彩色する手法)、「デフォルマシオン」(印画紙を撓めて引き伸ばしたプリント)といった技法を高度に駆使したものだった。「裸婦」(1926年)、「冬」(1927年)、「二階の女」(同)などの代表作は、これまでも多くの展覧会に出品され、写真集にも収録されている。
だが一方で、渡辺は1927年頃から、シンガポールで知り合った山端祥玉が創設した写真通信社、ジー・チー・サン商会に勤め、報道写真や広告写真の分野にも意欲的に取り組んでいた。今回のJCII PHOTO SALONでの回顧展では、写真の表現領域を大きく広げていった1920~40年代の渡辺の仕事にスポットを当てることで、むしろ彼の芸術写真家としての初心がどのように保ち続けられていったのかを丁寧に浮かび上がらせている。なお、キュレーションを担当した白山眞理は、2014年10月に『〈報道写真〉と戦争』(吉川弘文館)を上梓したばかりである。戦中・戦後の「報道写真」のあり方を見事に跡づけたこの労作をあわせて読むと、渡辺の写真の時代背景に対する理解がより深まるだろう。

2014/12/07(日)(飯沢耕太郎)

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