artscapeレビュー
原芳一「常世の虫II」
2013年01月15日号
会期:2012/11/30~2013/12/09
サードディストリクトギャラリー[東京都]
昨年刊行した写真集『光あるうちに』(蒼穹舍)で「写真の会賞」を受賞するなど、このところ充実した活動を展開している原芳一の新作展。「常世の虫」というタイトルの展示は、2009年の同ギャラリーでの個展に続くものである。
被写体なっているのは、相変わらず彼自身の日々の消息だが、たしかにそのなかにさまざまな虫たちが姿を現わしている。ちっぽけで目につきにくい蛾や毛虫や蜉蝣の類を捉える原の眼差しには、いささかの揺るぎもない。彼にとって、虫たちの世界と人間たちの世界はまったく同格であり、むしろ生(性)と死のはざまで密やかに営まれる虫たちの生の姿にこそ、強い関心と共感を抱いているのではないかと思えるほどだ。
DMに寄せた文章で原自身も書いているのだが、日本の古代から中世にかけて「虫」が大きく浮上してくる時期があった。「常世の虫」と呼ばれる宗教集団への弾圧事件、あの哀切な「虫愛づる姫君」の話。そんな争乱の時代へとなだれ込んでいく「末法の世」の空気感は、原にとって他人事ではなく、どこか現代の気分と重なりあうのだろう。このシリーズがどんなふうに展開していくのかはわからないが、原がもともと備えている文学的な想像力が、さらに奇妙な回路を辿りつつ花開いていきそうな予感がする。
2012/12/04(火)(飯沢耕太郎)