artscapeレビュー
みちのく鬼めぐり
2013年01月15日号
会期:2012/10/06~2012/12/02
東北歴史博物館[宮城県]
鬼についての展覧会。日本酒の「鬼ごろし」にはじまり、鬼の仮面、鬼を描いた錦絵、鬼にまつわる神社、地名、名所など、とにかく東北各地を中心に鬼のイメージを一挙に展示した。昨年、神奈川県立歴史博物館が「天狗」についての充実した展覧会を催したが、それに匹敵するほど見応えのある展覧会である。
鬼といえば、酒呑童子や邪鬼のように人間にとって邪悪な妖怪として理解されているが、本展に陳列された数々の鬼を見ると、必ずしも悪の存在とは限らないことがよくわかる。水不足に悩む村の上流でせき止められていた川の水を鬼が開通させたという伝説が残されているように、鬼はむしろ神に近い存在でもあった。つまり、鬼とは人間社会の周縁に広がる異界に住まう両義的な存在であり、そのことによってこの世の暮らしを合理的に機能させる神話的な存在でもあった。
かつて土門拳は、写真家の意図を超えた偶然性が写真に映りこむ事態を指して「鬼が手伝った」と言い表わした。このように鬼は神話的な存在として実在的に生きているというより、むしろ私たち自身が鬼を生かしながら私たちの暮らしをうまい具合に成立させているのである。山奥の空間的な周縁というより、日常生活の周縁のなかで生かしていると言ってもいい。
鬼が商品のなかに埋没しつつある現在、それを再び暮らしの周縁に取り出し、鬼をうまく生かす知恵を磨くことができれば、経済的な豊かさとは別の水準で、暮らしをより豊かにすることができるのではないだろうか。そのとき、アートはどんなかたちで関わることができるのか。
2012/11/16(金)(福住廉)