2021年10月15日号
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artscapeレビュー

ミュシャを愛した日本人

2013年01月15日号

会期:2012/11/17~2013/03/10

堺市立文化館アルフォンス・ミュシャ館[大阪府]

堺市立文化館は「与謝野晶子文芸館」と「アルフォンス・ミュシャ館」のふたつの館で構成されており、どちらも年に数回、コレクションをもとにしたテーマ展を開催している。今回、取り上げるのはミュシャ館で2013年3月10日まで開催中の「ミュシャを愛した日本人」展だ。明治期の日本におけるミュシャの受容の様相を、写真・文献資料を読み解きつつ、ミュシャおよび日本人作家の作品を並置することで照射する意欲的な試みである。
 4章から成る本展は、第1章がトゥールーズ=ロートレックやミュシャ等、19世紀末の著名なポスターの紹介を通じて、アール・ヌーヴォーの芸術を概説する役割を担っている。最後の第4章は、堺市が所蔵する約500点のミュシャ作品を収集したコレクター、土居君雄氏の紹介にあてられている。このふたつの章は、おそらく当館のどの企画展においても欠かすことのできない部分だろう。それゆえ、今回のテーマを直接反映していたのは第2、3章だが、とりわけ第2章の展示は秀逸だった。同章では、明治期においてミュシャのポスターが、黒田清輝らが設立した美術団体「白馬会」展などで展示されたことが、ミュシャのポスターが片隅に映っている白馬会展の会場風景写真により示される。そして、この写真の横には、写真に写っているミュシャのポスターそのものが展示されているのだ(無論、ポスターは複製物であるから、写真に写っているポスターと展示されているそれはまったくの同一物ではないが、複製物である以上そのことは問題ではない)。明治期へのタイムスリップのような演出が容易にできるのは、やはり土居氏の充実したコレクションあってのことである。良き美術館とは良き所蔵品によってつくられるのだ。
 第3章は、藤島武二や杉浦非水らがミュシャの影響のもとに生み出した装丁デザインを中心に、ミュシャの受容の高まりを伝える。興味深かったのは、『明星』の挿絵等を手がけた一条成美がふたつの対極的な試みを披露していることだ。ひとつはミュシャの作品の意図的な模倣であり、もうひとつは、ミュシャと月岡芳年のような浮世絵とを融合させるかのような試みである。異なるふたつの方向の試みには、当時の日本人画家たちの心の淵にあった西洋画への憧れと、ジャポニスムの流行に刺激された浮世絵の再発見というふたつの極の対峙を見る思いがする。そして、そのことは不思議と、現代の日本の若者たちがやはりミュシャと若冲や国吉の両方の極に同時に魅かれていることにも呼応するのだ。[橋本啓子]

2012/12/27(木)(SYNK)

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