2021年11月15日号
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artscapeレビュー

楢橋朝子「in the plural」

2013年01月15日号

会期:2012/11/20~2013/12/22

ツァイト・フォト・サロン[東京都]

楢橋朝子はこのところ、水の中に半ば没しつつ水中カメラで岸辺の景色を撮影する「half awake and half asleep in the water」のシリーズを中心に発表してきた。このシリーズはたしかに楢橋の写真家としての仕事の到達点というべき作品で、アメリカのNazraeli Pressから写真集が出版されるなど、国際的にも評価が高い。だが、今回のツァイト・フォト・サロンでの個展や、同時期に開催されたphotographers’ galleryでの個展「とおすぎてみえたこと」などを見ると、楢橋が次のステップへ向けて動き出したことが感じられる。
ツァイト・フォト・サロンの「in the plural」は、タイトルが示すように複数形の写真群によって構成されていた。中心になっているのは、さまざまな場所で撮影された「half awake and half asleep in the water」のヴァリエーションだが、そのなかにまったく関係なく見える写真が混じり込んでいる。サンタモニカの草原、湯沢の雪景色、登別のロープウェイなどは、むしろ前作の『フニクリフニクラ』(蒼穹舍、2003)の世界に近い。台北で撮影された鳥の影のようなものが写っているテレビ画面のようなテイストは、これまでの楢橋の作品には見られなかったものだ。実際に撮影期間はかなり長く、ここ10年ほどにまたがっているようだ。
こうしてみると、楢橋が「half awake and half asleep in the water」で打ち出していった、足場がぐらぐら揺れ動くような不安定な画像のあり方は、もともと彼女のなかに体質的に備わっていたものであることがわかる。水中カメラという装置を借りなくても、水の中に浮き沈みするような感覚がすでに身体化されていたということだろう。「half awake and half asleep in the air」とでもいうべき写真群が、次に形をとってきそうな気もする。

2012/12/12(水)(飯沢耕太郎)

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