artscapeレビュー

堀市郎・前田寅次 作品展

2013年01月15日号

会期:2012/12/04~2013/12/25

JCII PHOTO SALON/ JCIIクラブ25[東京都]

ここ10年ほどの間に、「芸術写真」と称される日本の1910~30年代の写真群についてはかなり多くの新たな知見の積み上げがあり、「芸術写真の精華──日本のピクトリアリズム 珠玉の名品展」(東京都写真美術館、2011)など、いくつかの注目すべき展覧会が開催されてきた。だが、絵画的な美意識(ピクトリアリズム)を基調とする「芸術写真」は、むろん日本だけでなく欧米諸国でも大流行しており、国際的な広がりを持つトレンドだったことを忘れるべきではないだろう。当然、アメリカやヨーロッパ諸国にわたった日本人写真家のなかにも、独自の「芸術写真」を志向する動きが見られた。今回、JCII PHOTO SALONと JCIIクラブ25で開催された「堀市郎・前田寅次作品展」は、アメリカで活動した二人の日本人写真家の作品を展示している。
1901年に渡米した堀市郎は、1912年からニューヨークで肖像写真館を経営し、新渡戸稲造、東郷平八郎などのポートレートも撮影している。ややソフトフォーカス気味の、柔らかな光にモデルの顔が浮かび上がるロマンティックな作風だが、ダンサーを撮影した実験的な作品もある。1929年に帰国後は、肖像画家として活動した。一方、前田寅次は1901年に渡米し、ロサンゼルスで不動産管理の仕事をしながら、アメリカだけでなくカナダ、スペイン、ベルギー、フランスなどの「サロン」(芸術写真家たちの公募展)で入選、入賞を重ねた。前田の作品はほとんどが風景で、さまざまな要素を画面に巧みに配置していく構成力に優れている。そのシャープなピント、抽象的な画面構成は、むしろ日本では1930年代以降に定着する「新興写真」に通じるものがありそうだ。
このような異色の写真家たちの仕事を、日本の「芸術写真」の流れのなかにどのように接続していくかが、次の大きな課題になるだろう。さらなる調査や研究が必要な在外日本人写真家は、堀や前田だけではないのではないだろうか。

2012/12/14(金)(飯沢耕太郎)

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