artscapeレビュー
維新の洋画家──川村清雄
2013年01月15日号
会期:2012/10/08~2012/12/02
江戸東京博物館[東京都]
川村清雄の名前は、神宮外苑の聖徳記念絵画館にある彼の作品《振天府》があまりにモダンだったため覚えた。この絵画館には明治天皇の事績を描いたのべ80人の画家による絵が常設展示されているが、ほかの画家が時代考証にのっとった歴史画を制作しているのに、川村だけが画面の上下を日本絵画独特の霞(またはマンガのフキダシ)みたいな曲線で分けて異なる時空を描き、まるで幻想画ともいうべきユニークな構成になっているのだ。その後もいくつかの作品を見るにつけ、流れるような絵具の伸びや細部をぼかして省略する画法などは、黒田清輝以前の明治美術会の世代としては例を見ず、いったいどこからこうした表現が生まれてきたのか不思議に思っていた。今回の大規模な回顧展を見て、ヴェネツィア留学時代に18世紀の画家ティエポロの影響を受けたことを知り、なんとなく納得。スピード感のある筆触や背景を白濁させてウヤムヤにする空気感がよく似ているのだ。晩年には、個々のモチーフこそ遠近感や立体感など西洋的作法が守られているものの、極端に横長(縦長)の画面に余白を大きくとったり、陰影を省略して日本絵画らしさを強調したりして、独創的といえるほど折衷様式に傾いている。川村清雄の名前が忘れられてきたのは、このように近代絵画の主流からはずれたティエポロに学んだり、みずから和洋折衷に入り込んでいったからだろう。だとするなら、その作品が再評価されるのは折衷主義が叫ばれたポストモダンの時代には当然のこと。むしろ遅すぎたくらいだ。
2012/12/01(土)(村田真)