2020年03月15日号
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artscapeレビュー

もうひとつの川村清雄 展

2013年01月15日号

会期:2012/10/20~2012/12/16

目黒区美術館[東京都]

昨秋、江戸東京博物館と目黒区美術館の2館で洋画家・川村清雄(1852-1934)の展覧会が開かれた。江戸東京博物館での展示(2012年10月8日~12月2日)は「維新の洋画家──川村清雄」と題し、清雄の生涯を川村家の資料と、《勝海舟像》や《形見の直垂》、フランスからの里帰り展示である《建国》などの絵画作品で包括的に振り返るもの。同時期に開催された目黒区美術館での展示(2012年10月20日~12月16日)は江戸博に対して「もうひとつの川村清雄」というタイトルで、目黒区美術館が所蔵する加島コレクションと、馬頭広重美術館所蔵の青木コレクションを中心に、とくに清雄の後半生に焦点を当てた展示であった。加島コレクションの旧主、加島虎吉は出版社「至誠堂」の経営者であり、清雄の支援者でもあった。清雄は明治末から大正期にかけて至誠堂が出版した雑誌や書籍の装幀を手がけている。油彩画においてはカンバスにとどまらず、木の板や、漆の盆、絹本など多彩な素地に作品を描いた清雄であるが、装幀の仕事においては当時の印刷技術を前提とした限られた色彩と明解な描画が、油彩とはまた異なる魅力を生み出している。彼はまた、至誠堂との関わりを持つ以前から春陽堂の文芸雑誌『新小説』の挿画や表紙も手がけていた。絵画においては画壇に背を向け、作品を発表する機会がほとんどなかった清雄であるが、雑誌の表紙や挿画、書籍の装幀を手がけることで、彼の作品は同時代の多くの人々に知られていたのである。書籍の原画には板に油彩で描かれて周囲に印刷用のトンボが貼り付けられているものもあり、当時の印刷技術を知るうえでも興味深い。川村清雄の装幀の仕事には、まだ同定されていないものもあるといい、今後の研究の進展が楽しみである。[新川徳彦]

2012/12/16(日)(SYNK)

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