artscapeレビュー

2015年01月15日号のレビュー/プレビュー

トッド・マクレラン「THINGS COME APART」

会期:2014/11/22~2015/01/04

Paul Smith SPACE GALLERY[東京都]

カナダ・トロントをベースに活躍するフォトグラファー、トッド・マクレラン(Todd McLellan)の仕事から「Disassembly Series(分解シリーズ)」と呼ばれる写真作品が紹介されている。黒電話、タイプライター、カメラ、PC、時計等々、道端に捨てられていたガジェットを拾ってきてばらばらに分解し、白い背景の上にならべて撮影した写真シリーズ。言葉にしてしまうと至極簡単なのだが、露わにされたガジェットの機構の面白さと、それぞれがきちんと機能を持った部品によるコンポジションの美しさには驚かされる。これは当然かも知れないが、アナログで可動部が多い機械ほど構造は複雑で部品数が多い。タイプライターやアコーディオンの写真には膨大な数の部品が並んでいる。対して、DVDプレーヤはとても単純に見える。PCの構造は単純に思われるが、キーボードのキーなど意外に部品の数が多い。部品を並べて撮影した写真ばかりではなくそれらが宙を舞っている写真があるが、マクレランのウェブサイトを見ると実際に部品を落下させてストロボ撮影しているようだ。展覧会を企画したポール・スミスとは3種類の腕時計でコラボレーションしている。メカ好きにはたまらない作品。[新川徳彦]


Disassembly behind the scenes from Todd McLellan Motion/Stills Inc. on Vimeo.

2015/01/03(土)(SYNK)

プレビュー:スイス・デザインの150年

会期:2015/01/17~2015/03/29

東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]

日本とスイスの国交樹立150年を記念して開催される展覧会。観光・交通といった地理的な要素をブランド化するデザインから、ビクトリノックスやネフ、スウォッチなどのものづくり企業のデザイン、デザインの巨匠マックス・ビル、スイス・タイポグラフィ、建築家ル・コルビュジエ、そしてスイスデザインの現在まで、その全貌を見せるという。スタイルとしては実用性と機能性、合理性というモダンデザインを好みつつ、ブランドの創出においては職人仕事、手仕事を重んじ、高い価値と優れたイメージを生み出しているスイスデザイン。その歴史と現在の姿は、日本のデザインのあり方にも大いに参考になるに違いない。[新川徳彦]

2015/01/05(月)(SYNK)

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プレビュー:『衣服にできること 阪神・淡路大震災から20年』

会期:2015/01/17~2015/04/07

神戸ファッション美術館[兵庫県]

ファッション美術館としての阪神淡路大震災から20年の節目へのアプローチ。津村耕佑による「家をなくしてしまったとき、人を最後にプロテクトするのは服になる」というコンセプトのファッションブランド・FINAL HOME、そして衣服を造形する眞田岳彦の新作などを展示する。実際の衣服としての機能性もあるが、こういったコンセプチュアルな作品が、震災との直接的な関わりをもって展覧されることで、震災時におけるアートの存在意義、抽象性の持つ力などをどのように深める切り口となりうるか。

2015/01/06(火)(松永大地)

プレビュー:『DJもしもし 個展』

会期:2015/01/26~2015/02/01

momurag[京都府]

テクノに合わせて踊りながら、うどんを踏むという「テクノうどん」の考案者であり、六畳一間の小さな展示空間に作品を搬入していく様子を公開するというインスタレーション「うるさい」立ち上げのメンバーでもある、DJもしもしが京都にやってくる。書道だったり染め物だったりの作品をつくっていると思われるが、まったく底知れないごちゃごちゃした感じが魅力。京都でもトップクラスのごちゃごちゃ度を誇るスペースであるmomuragには格好のアーティスト。

2015/01/06(火)(松永大地)

浅葉克己のタイポグラフィ展「ASABA'S TYPOGRAPHY.」

会期:2015/01/09~2015/01/31

ギンザ・グラフィック・ギャラリー[東京都]

日本グラフィックデザイン界の重鎮、浅葉克己の展覧会。出品作品は、新作のポスター、掛け軸、過去の仕事の版下のコラージュ、ワイドラックスというパノラマカメラで撮影したモノクロームの写真(一部にはエナメル塗料でポロック風のペイントがされている)。そして1階と地階の壁面には手書きの日記。これは2008年に21_21 DESIGN SIGHTで開催された「祈りの痕跡。」展(2008/7/19-9/23)に展示された「浅葉克己日記」の続き。2002年から2014年までの日記から各年70日分ずつがピックアップされているという。A4判サイズにブルーブラックのインクでびっちりとテキストが書き込まれ、しばしば新聞の切り抜きや展覧会のチケットが貼り込まれている。展示されている日記のすべてを読むことは困難なので、本展に合わせて出品された『浅葉克己デザイン日記 2002-2014』(グラフィック社、2015)で少しずつ読み進めたい。日記の横にはグラフィック作品が添えられているが、これらは抜き出した日記に合わせて選ばれたもので、内容や制作時期は必ずしも日記と連動していないことと、浅葉克己以外の仕事が含まれていることには注意されたい。
 過去の仕事の版下や写真原稿を貼り込んだパネルも興味深い。コピーライターの糸井重里と組んだ西武の「おいしい生活」や「不思議、大好き。」のポスター、アーノルド・アロイス・シュワルツェネッガーが出演したカップヌードルなど、浅葉事務所に保管されている過去の仕事の一部が10枚のパネルに再構成されている。いまではなかなか見ることができない手仕事の記録なのだが、展覧会の制作風景を追った映像(地階で上映)を見ると、写植を貼り込んだ台紙を切り貼りしていることがわかる。当初本展の企画担当者は版下をそのまま見せることを提案したものの、この形式での展示になったという(未来のデザイン史研究者はオリジナルのままで保存しておいてもらいたかったことだろう)。いまだに本人はPCを用いず手の仕事にこだわり続けている。それにも関わらず、生々しい手の痕跡を見せずに編集してしまうところは、浅葉克己が徹底してグラフィックデザインの人である所以であろうか。
 展覧会のタイトルは「ASABA'S TYPOGRAPHY.」。タイポグラフィを主題とした企画なのだが、展示にはこのように日記や写真が含まれていて、必ずしも文字のデザインだけではない。しかし全体を俯瞰すると、浅葉克己の仕事の軸に文字があることがよくわかる。さらに言えば文字というよりは書である。それは描かれたもの以上に印象的な余白の存在であり、縦書きを想起する画面の流れであり、墨書を思わせる抑えた色彩だ。形と、間と、濃淡によって豊かなメッセージを伝える手法は、それが文字そのものでなくても表意文字の世界といえよう。近年は薄墨による表現に凝っているということで、ポスターにも用いられている英文書体「わびさび体」はコンピュータで作成した輪郭と薄墨の組み合わせ。浅葉克己といえばトンパ文字などアジアの書、文字への傾倒が知られているが、ここではアジアの書と欧文タイポグラフィとの融合が試みられている。[新川徳彦]


展示風景

2015/01/09(金)(SYNK)

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2015年01月15日号の
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