artscapeレビュー
2015年01月15日号のレビュー/プレビュー
「Henri Matisse:The Cut-Outs」展
MoMA(ニューヨーク近代美術館)[アメリカ合衆国ニューヨーク市]
マティスの「カット・アウト」展は、彼の切り抜き系の作品にしぼって紹介するもので、最初は小さい書物の挿絵くらいの大きさだが、チャペルのステンドグラスやスイミング・プールになると、壁全体、部屋まるごとのスケール感で展開する。切り絵を並べて、それで配置やサイズを検討する、創作のプロセスもよく示していた。1階では、あいちトリエンナーレの映像プログラムで紹介したビル・モリソンの作品を上映する。激しく劣化したフィルムを意図的に使うために、もとの物語と関係なく、独特のイメージをつくるのが興味深い。ロバート・ゴーバー展は、シンクや壁紙など、日用品をしつこく作品化し、不気味なズレを生じさせる。スターテバント展は、オリジナルをつくらず、いわばパクリアートを追求する。その他、美術系では、デビュッフェ、ロートレックの特集展示など、充実したラインナップである。
Robert Gober:The Heart Is Not a Metapor
会期:2014/10/4~2015/1/18
2014/12/30(火)(五十嵐太郎)
「Uneven Growth:Tactical Urbanisms for Expanding Megacities」展
会期:2014/11/22~2015/05/10
MoMA(ニューヨーク近代美術館)[アメリカ合衆国ニューヨーク市]
MoMAの建築セクションでは「不揃いな成長:膨張するメガシティの戦略的アーバニズム」展と題し、ムンバイ、ラゴス、香港、NY、イスタンブールなどの6都市のリサーチ&データ展示。こうした切り口は、レム・コールハースが流行らせ、2014年のヴェネツィアビエンナーレでピークになった手法だが、見せ方が完全にスタイル化している。デザイン部門は、音や音楽関係をテーマにした展示で面白い。が、やはり一番の迫力は20世紀美術のコレクションを展示する常設のエリアだろう。卒計やイベントで学生を見ていると、普段美術館に行かないだけでなく、企画展しか重視しない雰囲気を感じるが、本当に強い美術館は、常設のすごいところだ。2年前に大がかりな日本現代美術の企画展を見たが、今日駆け足で見たところ、日本人で展示されていたのは、スピーカーとゲーム(インベーダーやパックマン)などのデザイン系くらいである。ただ、建築部門では、日本建築展を準備しているようだし、そもそも箱の増改築を谷口吉生が手がけている。MoMAの止めは、レストランのザ・モダンがいつも美味いこと。『地球の歩き方』などの旅行ガイドはショッピング、レストラン、ホテルの後にようやくミュージアムの頁が来るくらい、食の方が好きなんだから(建築の説明はテキトーだし)、せめて日本の美術館も、こういうお店が普通にあるとよい。
2014/12/31(水)(五十嵐太郎)
Public Eye:175 Years of Sharing Photography
ニューヨーク市立図書館[アメリカ合衆国ニューヨーク市]
ニューヨーク市立図書館(1911)へ。豊富な資料を用いて、街や建築の記録写真を含むパブリック・アイ展、ターナーらのサブライム展を開催している。上階は旅行者が休める場所を提供するが、みなケータイをいじっているか、寝ている。設計は、マッキム・ミード&ホワイト。アメリカン・ボザールの代表だが、本家ヨーロッパの建築に比べると、デザインがちょっと弱いかもしれない。
2014/12/31(水)(五十嵐太郎)
モーガン・ライブラリー
[アメリカ合衆国ニューヨーク市]
モーガン・ライブラリー(1906)を訪れる。これもマッキム・ミード&ホワイトの作品を宇含む、20世紀初頭からの3つの様式建築をつなぐ、レンゾ・ピアノの増改築だ。フォートワースのキンベル美術館と同様、既存の建物をリスペクトしながら、明るい空間を生みだす、安定のクオリティだ。今回は、一時的なアート・インスタレーションが挿入されており、前に何もない状態で見たときと比べると、空間の良さが少し減じている。
2014/12/31(水)(五十嵐太郎)
日本の色、四季の彩──染色家 吉岡幸雄展
会期:2015/01/02~2015/01/18
美術館「えき」KYOTO[京都府]
京都、染司よしおか五代目、吉岡幸雄の仕事を紹介する展覧会。かつて国風文化を彩った240種のかさね色目による屏風、奈良東大寺や石清水八幡宮の年中行事で献じられる和紙製の造り花、薬師寺など古社寺の伝統行事で着用される伎楽衣装など、いずれも布や紙に色を染めた作品が出品されている。これまでにも、さまざまなメディアでたびたび紹介されてきた吉岡氏。作務衣の似合うその風貌はまさしく職人風で、一見して頑健で質実といった印象をうける。その仕事は、しかし、色の呪術のようである。たとえば、正倉院に残された染色の復元。たしかに遺物には色が残ってはいるものの、永い歳月を経て変色、退色してもとの色は定かではない。染料や染め方に関する記録がいくらかあったとしても、染色は気温や湿度、水質など微妙な条件の違いに結果が左右される繊細な作業なので、記録どおりとはいかないだろう。いまとなっては、当時の色そのものはただ推し測ることしかできない。それでも吉岡氏は日本の染色の歴史を丹念にたどり、経験を重ねるなかで製法を確立してきた。本人は自身の仕事を「日本において古くから伝わってきた植物染、つまり自然に存在する草木花の中から美しい色彩を引き出して絹や麻、木綿、和紙などに染めること」と述べている。かつて日本人が愛でた色、その色をいま、わたしたちの目前に彩って顕現させてくれる、その仕事はまるで超自然にはたらきかける呪術のようである。[平光睦子]
2015/01/03(土)(SYNK)