artscapeレビュー
2015年01月15日号のレビュー/プレビュー
奈良原一高「王国」
会期:2014/11/18~2015/03/01
東京国立近代美術館[東京都]
奈良原一高が1958年に発表した「王国」は、まさに彼の初期の代表作というにふさわしい、堂々たるたたずまいの作品である。函館のトラピスト修道院を舞台とする第一部「沈黙の園」と、和歌山の女子刑務所を撮影した第二部「壁の中」という二部構成は、1956年のデビュー作品展「人間の土地」(鹿児島県桜島の「火の山の麓」と長崎県端島の「緑なき島」の二部構成)を踏襲しているが、囲い込まれた空間における人間の生の極限状況を提示するという観念的な枠組みはより強化され、ぴんと張りつめた緊張感を孕んだ画像が強い印象を与える。1962~65年のヨーロッパ滞在以降に、豊穣に花開いていく奈良原の写真の基盤は、この作品によって確立したといってよいだろう。
「王国」は雑誌発表や展覧会、さらに写真集として刊行されるたびに、微妙に姿を変えていったシリーズである。今回の東京国立近代美術館の展示は、2012年にニコンから寄贈された87点のセットによるものであり、それは1978年刊行の写真集『王国─沈黙の園・壁の中』(朝日ソノラマ)の構成を、ほぼそのまま再現したものだという。大、中、小の3種類のプリントを配置した展示空間は、実に緊密に練り上げられており、今なおみずみずしい鮮度を保っている。企業が所持していた写真作品が、美術館のコレクションとしてよみがえるという例は、これまであまりなかったのではないだろうか。今回の展覧会は、そのいいモデルケースになると思う。
2014/12/09(火)(飯沢耕太郎)
Ezotic Caravan──国の北から
会期:2014/12/04~2014/12/09
東京都美術館ギャラリーC[東京都]
タイトルの「国の北から」はいわずもがな、「エゾチック・キャラバン」のほうも国鉄時代のキャンペーン「エキゾチック・ジャパン」をもじったのか。命名者は50代だな。ちなみに「エゾチック」とは北海道的なるもの、といった意味らしい。出品は北海道出身の18人による絵画、彫刻、インスタレーション、写真、マンガなど。いくつか目についた作品を挙げると、石ばかり描いた工芸的仕上がりの絵画(+オブジェ)の川上亜里子、「ドーン」という文字を立体化して赤く塗った高橋喜代史、白い液体を入れたプールの上から水に関連する記号やイメージを投影した端聡、女性ヌードの投稿写真ばかり描出する村山之都、自作の縄文太鼓を並べた茂呂剛伸……。よくも悪くもエゾチックなものは感じられませんでした。
2014/12/09(火)(村田真)
私たちの窓から見える風景──現代美術作家の視点からひもとく、イメージ共有のあり方
会期:2014/12/09~2014/12/20
東京都美術館ギャラリーA[東京都]
タイトルの長い展覧会はコンセプトが明確ではない、という法則がある。ぼくが勝手につくった法則だが、だいたい当てはまる。この展覧会も例外ではなく、どういうグループなのか、なにを目指しているのかよくわからない。でもおもしろい作品がいくつかあった。ひとつは、サッカーボールの軌跡を立体的に彫ったり、水泳選手が水に飛び込んでしぶきを上げた瞬間を捉えた稲葉朗のマンガチックな木彫。もうひとつは、だれの作品か忘れたが、直径10メートル近い黒いビニール袋に空気を送ってドーム状に膨らませ、中に入れるようにした作品。これをゴミ袋に見立てると、内部からうっすら外の世界が透けて見え、自分がゴミになった気分が味わえる。会場が吹き抜けの巨大空間なので、これくらい量塊感がないと太刀打ちできないのかもしれない。
2014/12/09(火)(村田真)
実験──ことばを展開させてみる
会期:2014/12/09~2014/12/20
東京都美術館ギャラリーB[東京都]
ふだんはスルーしてしまう書の展示だが、ワケあって入ってみた。映像ありレリーフありインスタレーションあり迷宮あり、タイトルどおり「言葉を展開させてみる」「実験」。
2014/12/09(火)(村田真)
銅版画家 清原啓子の宇宙
会期:2014/11/30~2014/12/14
八王子市夢美術館[東京都]
1987年に31歳で亡くなった銅版画家・清原啓子(1955-1987)。その作品集
の刊行に合わせて八王子市夢美術館で展覧会が開催された。作品集に収録されているのは彼女が版画家として活動した10年間に残した30点の作品(未完成作を含む)、詩、素描(下絵)であるが、展覧会ではそれらに加えて試刷、制作ノート、原版、そして彼女の蔵書が入った書棚が出品された。「久生十蘭、埴谷雄高、三島由紀夫など神秘的、耽美的な傾向の文学を愛し、その『物語性』にこだわった精緻で眩惑的な作品」と紹介文にあるとおり、画面一杯に描き込まれた植物、生物、建築、異形の人々などの幻想的なテーマと、扱われたモチーフ、そして彼女が選んだ技法とその技巧に驚嘆する。鉛筆によって描かれた下絵のディテールと精度にも驚くばかりだ。一つひとつの作品に掛けられたエネルギーにも圧倒される。しかも清原は作品を発表した後でもしばしば作品に手を入れ続けていたという。《魔都霧譚》(1987)については制作過程がわかる20枚の試刷とそれぞれについて記した制作ノートのコピーが示されている。未完成の作品もまた彼女の創作過程を示すものであり、とても興味深く見た。2週間の会期は短い。気になりながら見逃してしまった人も多かったのではないだろうか。[新川徳彦]2014/12/10(水)(SYNK)