artscapeレビュー

2015年01月15日号のレビュー/プレビュー

ヒトのカタチ、彫刻

会期:2014/12/16~2015/03/22

静岡市美術館[静岡県]

白くて広々としたロビーを使った展示。青木千絵、津田亜紀子、藤原彩人の3人の人体彫刻が床に置かれている。といっても青木は漆、藤原は陶、津田は樹脂に布を被せたもので、造形そのものより素材に目が行きがちな点で、彫刻というより工芸的な印象を与える。いずれもモノクロームを基本としながら要所に色彩を施しているので、白い空間にうまく映えている。ただし、床置きのため柵が必要なのはわかるが、やっぱり目ざわり。

2014/12/12(金)(村田真)

阪神・淡路大震災から20年

会期:2014/11/22~2015/03/08

兵庫県立美術館[兵庫県]

静岡からひかりで新神戸へ。1月17日の20周年に合わせ、常設展示室でコレクションを交えながら震災をテーマにした展示をやっている。そもそもこの美術館自体、阪神大震災後「文化復興」のシンボルのひとつとして建てられたものだから、自館の成り立ちとコレクションをたどるだけでも震災に関連した展示になってしまうが、なかでも気になる作家をピックアップしてみると──。震災で倒壊した家に押しつぶされて亡くなった津高和一。ぼくは名前しか知らず、作品を見てもあまりピンと来なかったが、80年代前半に屋外にテントを張ってその中で展覧会を開いていたことを聞いて、ただの抽象画家ではないことを知った。具体の精神が引き継がれていたのか。被災地を撮った写真はおびただしくあるのに、被災地を描いた絵は少ない。西田眞人の《瓦礫の街》はその代表例といえるが、写真を元にした絵であれば写真以上の迫真力が求められ、苦心の跡がうかがえる。福田美蘭の《淡路島北淡町のハクモクレン》は、写真と絵の組み合わせ。画面下に倒壊した家とその脇に立つ木の写真を貼り、その上に木の幹をつなぎ、鮮やかな青空をバックに大きくハクモクレンの花が開いたさまを描いている。泣かせるのは、写真に「この木を残してやって下さい」と書いた板が木の枝にぶら下がってるのが写っていること。福田の絵は「こんなに花が咲きましたよ」という応答なのだが、花びらに混じって☆をたくさん描き込んでるのはどうなんだろ。写真では、震災から約10年後の被災地や遺体安置所を撮った米田知子のシリーズに注目したい。最大の被災地は更地と新築の家が写った風景写真になり、遺体安置所だった教室はなにごともなかったかのような室内写真になっている。震災を撮るのではなく、震災後の一筋縄ではいかない時間を捉えている。ところで、戦前に活躍した写真家の中山岩太による神戸空襲の戦災写真が何点か並んでいたが、まるで50年後の震災を予告しているかのようだ。

2014/12/12(金)(村田真)

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震災から20年 震災 記憶 美術

会期:2014/12/16~2015/03/08

BBプラザ美術館[兵庫県]

県立美術館から歩いて5分ほどのBBプラザでも震災展をやっている。いやな言い方だが、東日本大震災の追い討ちがなければこんなに注目されなかったかもしれない。震災のストレートな表現は、県立美術館にも出ていた西田眞人による下絵を中心とした10点ほどの震災画と、白い瓦礫状の山を築いて石をたたく音を流す古巻和芳+あさうみまゆみ+夜間工房のインスタレーションくらいか。榎忠はさすがにスケールが違う。1500万年前の野島断層と、約1億年前の鞘型褶曲の化石を出している。ここまでスケールを拡張すると、阪神大震災が一瞬のちっぽけな出来事に思えてしまう。

2014/12/12(金)(村田真)

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山部泰司展「溢れる風景画2014」

会期:2014/12/16~2014/12/28

ラッズギャラリー[大阪府]

東西線新福島駅で降りて中之島近くのラッズギャラリーへ。山部泰司は80年代に花のイメージを画面いっぱいに広げた絵画で注目され、少しずつ変化して葉っぱのような抽象形態になり、一時は画面が金箔に覆われていたが、近年は樹木の生い茂る風景画に移行している。おもに関西で発表しているため数年に一度しか見る機会がないので、そのつど画風が大きく変わったように感じるが、基本的に植物をモチーフにしている点ではブレがない。風景画も数年前から続けているらしく、今回は赤茶色の線描で描き込んでいて、一見昔の銅版画を思わせる。小品には青色の線描もあって、こちらは西洋陶磁器の絵付けみたいだ。しかしよく見るとそんな懐古趣味的なものではなく、地面が水面というか水流のようになっていて、レオナルド・ダ・ヴィンチの洪水の素描、山水画、津波まで連想させる。というより、山部がレオナルドと山水画と津波をつなげたというべきか。また、水が雨になって地に降り注ぎ、樹液となって木を駆け上るという自然のサイクルも示唆しているのかもしれない。タイトルの「溢れる風景画」とは、水や樹木のあふれる風景画であると同時に、想像・創造あふれる風景画でもあるだろう。

2014/12/12(金)(村田真)

波濤──柿沼瑞輝 展

会期:2014/12/08~2014/12/28

ヨシミアーツ[大阪府]

DMの画像を見て、これは実際に見てみたいと思った。絵具がグチャグチャに塗られ、滴り落ち、投げつけられ、ところどころロープを張ったりバーナーで焼いたりしている。一見アンフォルメル絵画のようでもあるが、感覚的にはどこかポップで、デ・クーニングよりラウシェンバーグに、今井俊満より大竹伸朗に近い。あえて分ければ、これは抽象絵画ではなく、むしろグラフィティだ。

2014/12/12(金)(村田真)

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