artscapeレビュー
2013年01月15日号のレビュー/プレビュー
楢橋朝子 写真展“in the plural”
会期:2012/11/20~2012/12/22
ツァイト・フォト・サロン[東京都]
水にぷかぷか浮かびながら水面スレスレから撮った写真ばかり。と思ったら、おそらくロープウェイ上から俯瞰したような風景写真や、走る車中から撮ったピンボケ写真、テレビ画面を撮った走査線入り写真もあって、さすがに水面スレスレ写真ばかり撮っていられなくなったのか。いずれにしても浮遊感のある写真だ。
2012/12/14(金)(村田真)
河地貢士 個展「則巻千兵衛のラインハート」
会期:2012/12/07~2012/12/22
ロウワーアキハバラ[東京都]
じゃりン子チエ、サザエさん、ナルト、トムとジェリーなどアニメの背景に描かれたものを、マーク・ロスコやアド・ラインハートやジャスパー・ジョーンズの絵のようにアレンジした作品。タイトルの「則巻千衛兵のラインハート」は、Dr.スランプの登場人物という則巻千兵衛(のりまき・せんべい)とラインハートの暗色の絵が重ね合わされていることがわかる。このようにこれらの作品はアニメにも現代美術にも通じていなければ理解しにくい。実際ぼくはアニメをほとんど見ないので、おもしろさが半分しか伝わらなかった。これでロスコもラインハートも知らなければ、その人にはまったく意味のない作品でしかないだろう。ま、高度なリテラシーを要する作品ともいえるが。
2012/12/14(金)(村田真)
シェル美術賞展2012
会期:2012/12/12~2012/12/24
国立新美術館[東京都]
「リヒテンシュタイン展」を見た(もう3度目だ)後で訪れたら、「リヒ展」の半券があればタダで見られるという。やったー! 840人1,226点のなかから選ばれた52点の展示。かなりの高倍率にもかかわらず内容的には残念ながらレベルの低い戦いだったので省略。今回は会場をヒルサイドギャラリーからだだっ広い国立新美術館に移したせいか、余った空間で過去の受賞者から選抜した4人による「アーティスト・セレクション」も開催していた。パッと見、青木恵美子の圧勝。軟弱な具象画が大半を占めるなかで抽象(とはいいきれないが)は目立つし、なにより画面の大半を鮮やかな赤が占めているので映える。やはり差別化を図り、目立たなければならない。
2012/12/14(金)(村田真)
この世界とわたしのどこか 日本の新進作家 vol.11
会期:2012/12/08~2013/01/27
東京都写真美術館 2階展示室[東京都]
いつのまにか11回目を迎えていた「日本の新進作家」展。若手の、将来が期待される写真家の選抜展としての役目をしっかり果たすようになった。もうすでに評価の高い写真家だけでなく、今回でいえば大塚千野や菊池智子のように、あまりきちんと紹介されていなかった新しい顔に出会える楽しみがある。
「この世界とわたしのどこか」という曖昧模糊としたタイトルが暗示するように、テーマらしきものはあまりくっきりとは見えてこない。1970年代生まれの女性作家というのが唯一の共通項だが、現代日本の索漠とした状況を映し出す旅のスナップショット(蔵真墨)、ファッション誌の女性像を精密に写しとったドローイングを複写し魔術的な操作を加えた銀塩プリント(田口和奈)、海辺の光景の中に寄る辺なくたたずむ釣り人たちを撮影した作品群(笹岡啓子)、過去のアルバム写真に現在の自分の姿を合成した「ダブル・セルフポートレート」(大塚千野)、中国のトランス・ジェンダーの若者たちを2005年から撮影し続けたプライヴェート・ドキュメンタリー(菊池智子)と、彼らの展示作品は多方向に引き裂かれている。だが、それぞれ「この世界とわたし」との関係のあり方を、真摯に探求していこうとする志向においては重なりあう部分があるのではないかと思う。
大塚の「見ることのできない何か、そこにはない何かを撮ることによって、わたしは新たな表象、新たな記憶を創造する」、あるいは田口の「作品は私の既知をつねに越えていくものだし、私よりずっとさきにいって私にさえ示唆をあたえてくれる」といったコメントに、彼女たちの、未知の「どこか」に写真という杖を差し伸ばし、何ものかを探り当てようという意欲のみなぎりを感じる。個人的には、胸が震えるような切実さをたたえた菊池智子の写真と映像作品(「迷境」2012)に、強い感銘を受けた。
2012/12/14(金)(飯沢耕太郎)
堀市郎・前田寅次 作品展
会期:2012/12/04~2013/12/25
JCII PHOTO SALON/ JCIIクラブ25[東京都]
ここ10年ほどの間に、「芸術写真」と称される日本の1910~30年代の写真群についてはかなり多くの新たな知見の積み上げがあり、「芸術写真の精華──日本のピクトリアリズム 珠玉の名品展」(東京都写真美術館、2011)など、いくつかの注目すべき展覧会が開催されてきた。だが、絵画的な美意識(ピクトリアリズム)を基調とする「芸術写真」は、むろん日本だけでなく欧米諸国でも大流行しており、国際的な広がりを持つトレンドだったことを忘れるべきではないだろう。当然、アメリカやヨーロッパ諸国にわたった日本人写真家のなかにも、独自の「芸術写真」を志向する動きが見られた。今回、JCII PHOTO SALONと JCIIクラブ25で開催された「堀市郎・前田寅次作品展」は、アメリカで活動した二人の日本人写真家の作品を展示している。
1901年に渡米した堀市郎は、1912年からニューヨークで肖像写真館を経営し、新渡戸稲造、東郷平八郎などのポートレートも撮影している。ややソフトフォーカス気味の、柔らかな光にモデルの顔が浮かび上がるロマンティックな作風だが、ダンサーを撮影した実験的な作品もある。1929年に帰国後は、肖像画家として活動した。一方、前田寅次は1901年に渡米し、ロサンゼルスで不動産管理の仕事をしながら、アメリカだけでなくカナダ、スペイン、ベルギー、フランスなどの「サロン」(芸術写真家たちの公募展)で入選、入賞を重ねた。前田の作品はほとんどが風景で、さまざまな要素を画面に巧みに配置していく構成力に優れている。そのシャープなピント、抽象的な画面構成は、むしろ日本では1930年代以降に定着する「新興写真」に通じるものがありそうだ。
このような異色の写真家たちの仕事を、日本の「芸術写真」の流れのなかにどのように接続していくかが、次の大きな課題になるだろう。さらなる調査や研究が必要な在外日本人写真家は、堀や前田だけではないのではないだろうか。
2012/12/14(金)(飯沢耕太郎)