artscapeレビュー

2013年01月15日号のレビュー/プレビュー

レオ・レオニ「絵本のしごと」/Leo Lionni, Book! Art! Book!

会期:2012/12/06~2012/12/27

美術館「えき」KYOTO[京都府]

絵本作家レオ・レオニ(Leo Lionni, 1910-1999)の仕事を紹介する展覧会。絵本の原画や版画、彫刻など約130点が展示されていた。オランダのアムステルダムで生まれたレオニは結婚後イタリアで暮らしていたが、ナチスの弾圧を逃れアメリカへ亡命、そこでグラフィックデザイナーとして活躍した。イタリアのファシスト政権が崩壊すると、アメリカとイタリアを行き来しながら活動を続けた。レオニが絵本を描き始めたのは49歳の頃でかなり遅いデビューだったが、「ニューベリー賞(Newbery Award)」と並んで、アメリカでもっとも権威のある児童文学賞とされる「コールデコット賞(Caldecott Award)」を4度も受賞するなど、絵本作家として独自の世界を築いた。ちなみに、両方ともにアメリカ図書館協会が、毎年アメリカで出版された本のなかから受賞作を選んでいるが、ニューベリー賞は物語を、コールデコット賞はイラストレーションをおもな対象とする。処女作『あおくんときいろちゃん(Little Blue and Little Yellow)』(至光社、1984[原著1959])にまつわる面白いエピソードがある。レオニが孫たちと汽車に乗っていたときの話だ。孫たちが騒ぎ出し、ほかの乗客に迷惑がかかることを心配したレオニは、読んでいた雑誌を切り抜いて即席絵本をつくった。それがデビュー作の『あおくんときいろちゃん』。以後、1999年にこの世を去るまで30作近くの絵本が発表され、日本でもその多くが翻訳出版されている。ネズミやシャクトリムシなど、小さな主人公たちが自分らしく生きる姿や、家族の大事さが温かいストーリーで描かれている。また、グラフィックデザイナーとして培ってきた構成や色彩に対する優れた感覚が存分に発揮されており、子ども向けの絵本とは思えないほど、洗練された、完成度の高い作品が多い。グラフィックデザイナーの福田繁雄は『コーネリアス(Cornelius)』の日本語版に次のような言葉を寄せている。「『コーネリアス』は彼の21冊目の新作で、フロッタージュ(拓本的な技法)と切紙という手法で、切れ味の良い、ゆったりとした画面をつくりあげています。登場する動物たち、空や樹木や草や水などの表現に、常に実験的な新しさが用意されているのには、感心させられてしまいます。このことはレオ・レオニの絵本の重要な魅力のひとつです。印刷技術にいかに、精通しているかということですが、このことは、彼が世界的なグラフックデザイナーであるという経歴から納得させられるというものです。」[金相美]

2012/12/18(火)(SYNK)

artscapeレビュー /relation/e_00019734.json s 10070302

はじまりは国芳──江戸スピリットのゆくえ

会期:2012/11/03~2013/01/14

横浜美術館[神奈川県]

幕末を生きた浮世絵師、歌川国芳の展覧会。だと思って見ていくとそれだけでなく、国芳の門下生や月岡芳年、河鍋暁斎といった維新後の浮世絵まで紹介されている。と思ったらそれだけでなく、大正時代の鏑木清方による肖像画まである。ずいぶん範囲が広いなあと思ったらそれだけでなく、五姓田芳柳・義松ら五姓田一派による洋風表現や油絵まであって、いったいどこまで風呂敷を広げるのかと思ったら、最後は伊東深水、川瀬巴水、ポール・ジャクレーらによる昭和初期までのモダンな人物画や風景画まで並んでいるのだった。たしかにタイトルどおり国芳に始まる「江戸スピリットのゆくえ」を追ったのかもしれないが、裾野の広がりを眺望できてお得感がある反面、ちょっと広げすぎて焦点がボケてしまった感もある。

2012/12/18(火)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00019295.json s 10070326

「ヨコハマトリエンナーレ2014」第1回記者会見

会期:2012/12/18

横浜美術館円形フォーラム[神奈川県]

「ヨコハマトリエンナーレ2014」のアーティスティック・ディレクターに、アーティストの森村泰昌が就任した。同じく2014年開催予定の「札幌国際芸術祭」のゲストディレクターには坂本龍一が就任。「横浜トリエンナーレ2005」ディレクターの川俣正を嚆矢として、最近どうやら美術館学芸員やキュレーターに代わって、アーティストが国際展のディレクター職に就くのが流行になっているようだ。理由はおそらく、実力と知名度を兼ね備えたキュレーターが底をついたというのもあるだろうが、森村自身も語るようにアーティストは国際展についてあまり知らないので「真っ白な状態からスタートできる」からという理由も大きいだろう。つまり前例や常識にとらわれない斬新な発想による展覧会が可能であり、増え続ける国際展において差別化が図れるということだ。でもうまくいけばいいけど、前例や常識にとらわれない発想は現場に混乱を招きかねないからな。ともあれ成功を祈る。ほかに決まったことは、会場が横浜美術館と新港ピアの2カ所に落ち着いたこと、事業名は「横浜トリエンナーレ」、展覧会名が「ヨコハマトリエンナーレ」になったことなど。決まってないのは展覧会の方向性とテーマで、これが決まらなければ出品作家も選べない。

2012/12/18(火)(村田真)

SSDハウスレクチャー 「線の事件簿」松田行正

会期:2012/12/18

阿部仁史アトリエ[宮城県]

仙台の卸町にて、デザイナーの松田行正が自ら手がけた大量の本を会場に持ち込み、レクチャーを行なった。二次元的なグラフィックにとどめるのではなく、本という三次元のモノへのこだわりが強く感じられる内容だった。個人的にも『線の事件簿』でファンになり、筆者が編集委員長のとき『建築雑誌』の表紙デザインを依頼したことがある。毎年、牛若丸で自由に好きな本をつくっているが、実は恒例のライブで喜ばれるお土産からスタートしたとのこと。またデザイナーの資質に加え、もともと編集者的なセンスが根源にあったことを知る。

2012/12/18(火)(五十嵐太郎)

渡辺好明遺作展「光ではかられた時」

会期:2012/12/07~2012/12/24

東京藝術大学大学美術館陳列館[東京都]

渡辺さんはぼくと同世代だけど名前を知ったのはそんなに昔のことではなく、20年ほど前に野外で階段状に並べたロウソクに火を灯したインスタレーションの写真を見たときだ。そのとき思ったのは「いい作家だなあ、でもなんでいままで知らなかったんだろう」ということだった。なぜ彼を知らなかったかといえば、彼が藝大の院を出てからも助手を務め、ドイツに留学後も藝大一筋というアカデミシャンだったからだろう。アーティストより教育者、大学人としての立場を優先していたように思う。それは99年に取手に先端芸術表現科が立ち上がり、毎週顔を合わせるようになって強く感じたことだ。先端にはセンセーが何人もいたが、取手アートプロジェクトをはじめとする雑事を一身に背負っていた印象があり、作品制作の時間など満足にとれなかったはず。結局遺された作品は、燃え尽きたらなくなるロウソクの作品ばかり。それが渡辺さんらしいといえばらしいけど。

2012/12/19(水)(村田真)

artscapeレビュー /relation/e_00019918.json s 10070328

2013年01月15日号の
artscapeレビュー