artscapeレビュー
2013年01月15日号のレビュー/プレビュー
前谷康太郎「distance」
会期:2012/11/17~2012/12/24
梅香堂[大阪府]
暗闇の中にオレンジ色の光がぼんやりと灯り、徐々に大きくなったかと思うと再び縮小に転じ、やがて消失する。その繰り返しのなかで観客の瞼には残像が焼き付き、同一映像の繰り返しとは思えない豊かな視覚体験へと誘われる。ロスコの絵画を思わせる前谷の作品は、実は単純な方法でつくられているらしい。ただ、自作のピンホールカメラ風の道具を使用することで、映像に不思議な神秘性が宿るのだ。本展ではこの作品以外に、12個のブラウン管テレビを用いた作品なども出品。ブラウン管の個体差を生かすことで、ひとつの映像から豊かバリエーションを生み出すことに成功していた。彼の作品を見ていると、われわれの視覚にはまだまだ未知の領域が残っていることが実感できる。彼の作品をもっとたくさん見てみたい。
2012/12/13(木)(小吹隆文)
金光男 展 row─thickness:KIM Mitsuo works
会期:2012/12/14~2012/12/27
Gallery PARC[京都府]
金光男は、白く不透明なパラフィンワックス(=蝋)にシルクスクリーンでイメージを刷り、そこに熱を加えることでイメージの一部が変容した平面作品を発表している。本展では従来どおりの作品に加え、ニュータイプの作品も発表。会場の床に溶かした蝋を直接流し込んでつくった支持体に、現場でシルクスクリーン印刷を施し、その一部が電球の熱で溶けていく過程が見える作品や、ガラス窓に同様の処理を施した作品など、これまでにないサイトスペシフィックな表現を展開した。学生時代から完成度の高い作品を発表してきた金だが、本展でのトライアルによって表現の幅を大きく広げることに成功した。
2012/12/14(土)(小吹隆文)
増田佳江「遠い歌 近い声」
会期:2012/11/29~2013/01/19
ギャラリー小柳[東京都]
舞台らしきものを正面から描いたり、ペルシャ絨毯のようなものを描いたり。モチーフの選択はおもしろいが、塗り方が雑。点描のように細かい筆跡を積み重ねていく描法なのに、せっかく美しい色彩が混ざって濁ってしまっている。キャンヴァスの張り方も無頓着。すべて木枠の裏側で留めているのだが、ふつう折り返しを上下ないし左右に統一するものを、彼女は上下左右が混在し、定まっていない。それは別に悪いわけでも困ったことでもなく、むしろそんなことを気にするぼくのほうがおかしいんだろうけど。
2012/12/14(金)(村田真)
中村亮一「The world has begun to quietly say,“No”」
会期:2012/12/01~2012/12/26
LIXILギャラリー[東京都]
絵画の展示だが、矩形のタブローは1点のみで、一番の大作は木枠に仮留めしてるだけで張られておらず、あとの4点はベニヤ板を流動的なかたちに切った上に描いている。なにか物語性を感じさせる絵で、ちょっとネオ・ラオホに似ているけど技術が追いつかないといった印象だ。支持体にあれこれ凝るより描写力を身につけるほうが先だと思う。
2012/12/14(金)(村田真)
菅野由美子 展
会期:2012/12/05~2012/12/18
ギャルリー東京ユマニテ[東京都]
陶器や茶碗や胡椒入れなどの器を並べて几帳面に描いている。今回は一列に並べた極端に横長の作品もある。すべて原寸大なのでリアルなはずなのに、背景の壁に凹凸のある空間が出てきたせいか、デ・キリコのような超現実的な空気が漂う。いやキリコより、もっと現実離れしたスペインの厨房画家サンチェス・コターンに近づいたというべきか。どんどん浮世離れしていってないか。
2012/12/14(金)(村田真)