artscapeレビュー

ゼロ・グラビティ

2014年01月15日号

会期:2013/12/13

映画『ゼロ・グラビティ』は、ほとんどひとりのシーンだけで、どうやって90分を持たせるかと思ったら、危険につぐ危険のジェットコースター・ムービーになっており、重力がある地球に帰還する最後まで、緊張感を維持していた。最近、CGを使う映画はお決まりの超人戦闘シーンによる都市の破壊ばかりで食傷気味だったが、こんなシンプルな設定で無重力の空間を描く表現の可能性があるのだと、新鮮に感じた。これは「揺れる大地」どころか、立つべき大地すら存在しない静寂な闇の無限空間である。宇宙=死の世界(娘の喪失)での絶望から、結果はともかく最高の旅という肯定を経て、生命の世界への帰還。よろめきながら大地に足を踏みしめるまでの90分。
重力がないことを徹底的に描きながら、逆説的に重力の意味を思い起こさせる『ゼロ・グラビティ』を鑑賞した後は、今までの/これからの宇宙を舞台とするほとんどのSFの見え方が変わってしまう。また全映画と言ってよいが、地球上の映画はSFであるないにかかわらず、すべて重力が自ずと表現されていたのだ。つまり、コンピュータが映画内のあらゆる動きを計算しようとすれば、あるいは映画だけの情報をもつ地球外の知的生命体がいたとして、必ずや重力の法則を見出す。以前、アーティストの彦坂尚嘉と人間は最初にどうやって直角を発見したかを議論したとき、僕の考えのひとつは重力が垂直→直角の概念を普遍的に見出させるというものだった。

2013/12/15(日)(五十嵐太郎)

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