2020年07月01日号
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artscapeレビュー

齋藤陽道「宝箱」

2014年01月15日号

会期:2013/11/30~2014/03/16

ワタリウム美術館[東京都]

齋藤陽道の視覚的世界は、聾唖の写真家であるがゆえの特異な歪みを備えているのではないかと思う。決してネガティブな意味ではなく、彼の眼が捉え、カメラが記録する画像を見ていると、写っているはずのないものが写っていたり、見慣れた被写体が何とも奇妙な変容を遂げたりしていることがよくあるのだ。音のない世界に生きる彼は、視覚を研ぎ澄ますだけではなく、全身感覚的に(触覚や嗅覚も総動員して)「見る」ことを目指している。その結果として、彼の写真は「たましいのかたち」としか言いようのない、異様に昂揚した生命感に満たされることになる。
それに加えて、今回の展示で強く感じたのは、齋藤の言葉で何かをつかみ取る能力の高さだ。彼は普段から筆談でコミュニケーションを試みているのだが、そのことが彼の言語感覚に磨きをかけているのかもしれない。「感動」「絶対」「無音楽団」「MY NAME IS MINE」「せかいさがし」「あわい」といった、新作、旧作のタイトルを見ただけでも、彼の言葉を操る才能が驚くほど柔らかく、しかも鋭敏であることがよくわかるだろう。今回の展示で最も感動的だったのは、3Fの「無音楽団」のパートだった。ここでは五線譜を思わせるブラインドのイメージを下敷きにして、さまざまなかたちで音楽を楽しむ人々の姿が写し出されている。言うまでもなく、それらは齋藤にとっては理解不能な体験だ。だが、その「無音」の世界を、彼は肯定的に受け入れ、楽しげに写真に翻訳して見せてくれる。むろん、それらの写真からは音は聞こえてこない。つまり、われわれ観客もまた、齋藤の感じとった「無音楽団」の演奏を追体験できるということだ。
これらの新作を含めて、齋藤は急速にその写真家としての能力を開花させつつある。その勢いは、今後さらに強まっていくのではないだろうか。なお、ワタリウム美術館の編集で、カタログを兼ねた同名の写真集(ぴあ刊)が出版されている。デザインは寄藤文平。小ぶりだが、やはり勢いのある写真集だ。

2013/12/20(金)(飯沢耕太郎)

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