artscapeレビュー
2015年01月15日号のレビュー/プレビュー
記録と想起・イメージの家を歩く
会期:2014/11/15~2015/01/12
3.11関係の映像を紹介するものだが、「イメージの家を歩く」の副題通り、25の小部屋が連鎖する展示デザインが印象的だった。リビング、寝室、台所など、すべて具体的なインテリアがある小さな空間に映像を置くのだが、なんとも不思議な気持ちになる。ただし、本棚の中身もフツーで良かったように思う。ゴダールやTAZなど、いかにも文化施設というセレクションではなく、どこの家にもありそうな平凡なモノの方が、この展示には向いている。作品は、酒井耕+濱口竜介が向きあう対話の撮影手法を再現した部屋、藤井光による沿岸風景、小森はるか+瀬尾夏美の波のした、土のうえ、川村智美の石巻記録、長崎由幹によるパイプの椅子インスタレーション、仙台で原発の問題を問う映像など、さまざまなタイプの作品を鑑賞できる。
2014/12/16(火)(五十嵐太郎)
伊東豊雄 展──台中メトロポリタンオペラハウスの軌跡 2005-2014
会期:2014/10/17~2014/12/20
ギャラリー間[東京都]
台湾・台中市に建設中の伊東豊雄設計によるオペラハウスの展示。外見は四角い箱だが、内部はドーナツの内側の曲線(円筒の両端を広げたような)を連続させた複雑な構造になっていて、要するに床、壁、天井の境界がないのだ。伊東によれば「これは人体になぞらえることができる。人の身体には多くのチューブ状の器官が存在するように、この建築の内部にも縦横無尽にチューブ状の空間が貫通しているからである。身体が口、鼻、耳などの器官を介して自然と結ばれているように、このオペラハウスも内外が連続する建築を目指したのである」。もちろんそんなややこしいことをしたらテマヒマかかることは目に見えてるので、このプロジェクトを円滑に仕切りたい総務課と、芸術性を重視する企画課がバトルを繰り広げたのではないかと想像する。もちろん実際にそんな課はないだろうけど、少なくとも伊東氏の頭のなかで両課はせめぎあってるのではないだろうか。考えてみれば、伊東氏も反対の声を上げたザハ・ハディドの新国立競技場案だって、総務課と企画課とのつばぜり合いにほかならない(そこに経理課と環境課も乱入してよけい複雑かもしれないが)。新国立競技場はともかく、オペラハウスのほうは着々と進んでいるそうだ。
2014/12/16(火)(村田真)
未来を担う美術家たち17th──DOMANI・明日展
会期:2014/12/13~2015/01/25
国立新美術館[東京都]
「未来を担う美術家たち」「文化庁芸術家在外研修の成果」という、期待と事実を表わす2本のサブタイトルがついている。出品は12人(ほかに保存修復の3人も加わっている)で、年代は30代前半から50代なかばまで(年齢不詳が約3人)広がりがあるし、ジャンルも絵画、版画、ドローイング、彫刻、写真、陶磁、マンガ、アニメと多様。また、海外に派遣されたのは全員2000年以降だが、03-13年と幅があり、派遣先もヨーロッパ各国、アメリカ、インドネシアとさまざまだ。つまり文化庁のお金で海外に行ってきたという以外なんの共通点もないグループ展なのだ。まあ文化庁としては全員「未来を担う美術家たち」で収めたいのだろうが。でも見ていくうちに共通項が見つかった。ほぼ全員の作品がモノクロームかそれに近い色彩なのだ。と思ったら、後半の古武家賢太郎と入江明日香がカラフルだった。ガーン。とにかくトータルにはまとまりのない展示なので、個々の作品を楽しめばよい。雑巾に墨汁で年季の入った工場やクレーンを縮小再現した岩崎貴宏の「アウト・オブ・ディスオーダー」シリーズと、ドクロや鏡に過剰な装飾を施した青木克世の陶磁はすばらしい。岩崎の作品は川崎市市民ミュージアム所蔵となってるので、きっと京浜工業地帯の工場だろう。同じ目的で集う20-30人の人たちの顔を重ねて焼いた写真で知られる北野謙は渡米後、被写体を太陽や月に変えた。でも太陽や月を長時間露光で撮るのは珍しくないからなあ。一見、山口晃を思わせる入江明日香のJポップな屏風仕立ての絵が、実は銅版画(のコラージュ)だったとは驚き。これは売れそう。
2014/12/17(木)(村田真)
佐治嘉隆「時層の断片─Fragments from the Layers of Time─」
会期:2014/12/15~2014/12/20
ESPACE BIBLIO[東京都]
佐治嘉隆は1946年、愛知県生まれ。1968年に桑沢デザイン研究所写真専攻科を卒業している。同じクラスに牛腸茂雄、関口正夫、三浦和人がいた。牛腸とは後に、ギャラクシーというデザイン会社を共同運営したこともある。
この経歴を見てもわかる通り、日々スナップショットを撮影するという「構え」は若い頃にしっかりとでき上がっており、揺るぎないものがある。だが、今回東京・御茶の水のブックカフェ、ESPACE BIBLIOで開催された個展「時層の断片」を見ると、2005年からデジタルカメラでの撮影を開始し、06年からブログで作品を発表しはじめてから、その写真のスタイルが微妙に変わってきたようだ。単純に撮る量が増えただけではなく、被写体にぱっと反応する速度が早くなり、より軽やかな雰囲気が出てきている。彼のようなベテランの写真家が新たな領域にチャレンジしているのは、とても素晴らしいと思う。「時層」というタイトルは、あまり馴染みのある言葉ではないが、佐治の写真のあり方をとてもうまく捉えているのではないだろうか。シャッターを切る瞬間の、時空の広がり、偶然の形、光や影の移ろい、色の滲みなどが、地層のように積み重なり、柔らかに伸び縮みしながら連なっていく。気持ちよく目に飛び込んでくるイメージの流れを、A3サイズのプリント37点による展示で、心地よく楽しむことができた。
なお展覧会にあわせて、島尾伸三らとともに企画・刊行しているeyesight seriesの9冊目として、同名の写真集が出版されている。デザイン・レイアウトは佐治本人によるもので、2005~2013年撮影の写真が時系列に沿って144点並ぶ。より幅の広い写真群がおさめられて、奥行きを増した写真集の、展覧会のシンプルなたたずまいとの違いが興味深い。
2014/12/18(木)(飯沢耕太郎)
ゴーン・ガール
映画『ゴーン・ガール』(監督:デヴィッド・フィンチャー)を見る。事前に予告編で紹介していた展開は、全体からすると、ほんの序でしかない。女は怖い、という率直な感想だとネタバレ気味になってしまうが、それに終わらず、映画が終わった後も、結婚という日常にひそむ不気味な恐怖の感覚が持続する。フィンチャー監督らしく、その後はメディアを巻き込み、何度も物語がひっくり返り、思いがけない結末に向かって、ツイストを繰り返す。要は一種のファム・ファタルものなのだが、ベン・アフレックの馬鹿夫ぶり名演が、その効果に大きく貢献している。
2014/12/18(木)(五十嵐太郎)