artscapeレビュー
2015年01月15日号のレビュー/プレビュー
プレビュー:ギャラリー・ソラリス オープニング企画写真展「アンセル・アダムス展」
会期:2015/01/13~2015/01/25
ギャラリー・ソラリス[大阪府]
大阪・南船場の写真ギャラリー「NADAR/OSAKA」が2014年末で閉廊し、その場を引き継ぐかたちで「ギャラリー・ソラリス」がオープンした。同画廊のディレクター橋本大和は写真家であり、NADAR/OSAKAのマネージャーを務めた人物。大阪の写真文化を担うキーパーソンとして今後の活躍が期待される。肝心のオープニング企画は、ヨセミテ渓谷やカリフォルニアの雄大な自然を撮影したモノクロ写真で知られる、風景写真の巨匠アンセル・アダムスの個展だ。展示作品14点はヨセミテ渓谷のシリーズで、アダムスのアシスタントだったアラン・ロスによるオリジナル・ネガからのゼラチンシルバープリント(8×10サイズ)である。銀塩写真の教室やワークショップを積極的に行なっていく同画廊にとって、これほどふさわしい人選はないだろう。新ギャラリーの門出を祝福すると同時に、多くの写真ファンに愛される画廊となることを期待する。
写真:
Photographed by Ansel Adams � 2015 by The
Trustees of the Ansel Adams Publishing
Rights Trust
2014/12/20(土)(小吹隆文)
Yusuke Asai × ISETAN
会期:2014/12/03~2014/12/25
新宿伊勢丹 2階[東京都]
百貨店の店舗内で催された淺井裕介の個展。レディースのショップが立ち並ぶ店内の一角に淺井のマスキングテープの作品が展示され、あわせてアメリカで発表した作品の制作過程を記録した映像も上映された。きらびやかな照明が、淺井の絵画をいつも以上に輝かせていたように見えた。
淺井の絵画の特徴は、支持体とイメージを一体化させながらイメージを拡張させていく点にある。通常はあらかじめ固定化された支持体の中にイメージを収めるが、淺井はマスキングテープを貼り重ねながら支持体を構成するので、原理的にはどこまでも拡大することができる。例えば、ほぼ同時期にアラタニウラノでの個展で発表された作品は、マスキングテープで構成した支持体が四方八方に伸び、床や天井、壁に接着していた。それはまるで支持体の中のイメージが空間の中で手足を突っ張って自立しているかのようだった。
それだけではない。支持体を一定の大きさに限ったとしても、淺井の描き出すイメージは往々にしてその枠外にはみ出していく。今回も、店内の白い壁や柱にイメージが溢れだし、百貨店内の光景としてはある種異様と言っていいほどの爆発的な増殖力が見せられていた。
地と図の反転。いや、地を地として残しつつ図が地を追い越していく。淺井の絵画の真骨頂は、イメージの疾走感である。自力で道を切り開きながら邁進する速度は、時としてイメージが道の先へと突出してしまうほど、速い。凡庸な絵画に飽き足らない私たちは、絵画というフレームを置き去りにするほどの圧倒的な速度にこそ、惹きつけられてやまないのだ。
だが、淺井の躍動するイメージを支える空間として、百貨店があまりにも小さすぎたことは否定できない。現代絵画の隘路を軽々と突き抜けていく淺井裕介に、その仕事にふさわしい空間を提供することが、専門家の務めではないか。
2014/12/20(土)(福住廉)
「福島写真美術館プロジェクト 成果展/福島」
会期:2014/12/06~2015/12/21
キッチンガーデン2&3F[福島県]
2012年から福島県立博物館と同県内の各団体が連携して展開している「はま・なか・あいづ文化連携プロジェクト」の一環としておこなわれているのが「福島写真美術館プロジェクト」。写真家やアーティストが、福島県内で作品を制作して発表するというもので、今回はその第2回目の「成果展」が福島市栄町のキッチンガーデン内のスペースを使って開催された。
今回発表されたのは、華道家の片桐功敦の「南相馬環境記録プロジェクト」、ニューヨーク在住のアーティスト、安田佐智種の「南相馬住まいの記憶プロジェクト」、写真家の赤阪友昭の「福島環境記録プロジェクト」、写真家の本郷毅史の「福島の水源をたどるプロジェクト」の4作品だった。福島第一原発の「20キロ圏内」に咲く花を器に生けたり、風景の中に配置して撮影する片桐、津波で流された家々の土台部分を撮影した画像を繋ぎ合わせて再構成する安田、震災後の自然環境の変化を克明に撮影し続ける赤阪、福島を代表する河川、阿武隈川の源流をたどる本郷の4作品とも、長い時間をかけた労作であり、そのクオリティもとても高い。このプロジェクトが、「震災後の写真」のあり方を再考、更新していく重要な試みであることが、あらためて証明されたのではないだろうか。
なお12月20日には同会場で、筆者をモデレーターとして、出品作家の片桐、赤阪に加えて、郡山で花の写真を撮り続けている写真家の野口勝宏、立ち入り禁止区域に指定されていた原発敷地内と作業員の写真を発表したフォト・ジャーナリストの小原一真を交えて、「福島で撮る」と題するトークイベントが開催された。「福島写真美術館」というのは、まだ今回のプロジェクトに与えられた呼称に過ぎない。だが将来的には、福島及び東北地方の写真を蒐集、保存、展示する恒久的な施設としての「福島写真美術館」を、ぜひ実現するべきではないだろうか。その可能性を探っていく第一歩として、とても意義深いイベントだったのではないかと思う。
2014/12/20(土)(飯沢耕太郎)
宇加治志帆 Learning to be human
会期:2014/12/12~2014/12/21
FUKUGAN GALLERY[大阪府]
最近はアクセサリーなどの制作も行っているアーティストの宇加治志帆が久しぶりに個展を開催していた。平面作品、実際に身につけることができるウェア、立体作品をインスタレーションにした展示空間はリズミカルな色やかたちで彩られていて目にも心地良く、タイトルからイメージをつなぎあわせて連想を膨らますのが楽しい会場だ。ちょうど居合わせた他の来場者とともに、展示された貫頭衣スタイルのワンピースやスカートを着て一緒に写真を撮影することにもなったのだが、作家に立ち位置やポーズを指示され、まるでファッション雑誌かなにかの1ページをつくるように慎重に撮影が行われたのが面白かった。これもまた作品の一部だったのだろうか。視覚的なイメージがパズルを組み合わせていくように展開していく、映画みたいな展覧会。なかなか素敵だった。
2014/12/20(土)(酒井千穂)
山部泰司展─溢れる風景画2014─
会期:2014/12/16~2014/12/28
LADS GALLERY[大阪府]
会場の入り口正面にどんと展示された200号の大作の迫力が印象的だった山部泰司展。森のなかを流れる川や滝。水の流れる風景が褐色を帯びた赤で描かれた絵画が多数展示されていた。一見均整と調和のとれた奥行きのある世界なのだが、よく見ると画面の遠近やモチーフのバランスに違和感を覚えて、こちらの感覚も少し混乱する。作品ごとにやたら画面の細部に目が引き寄せられるのもそのせいだろうか。画面にいくつもの時間と空間が入り混じり、じっと見ていると「見る」ということ自体を意識させられるから不思議。今展にはデルフトブルーのような青で描かれた作品シリーズも展示されていた。赤褐色の画面を眺め続けた目にそのブルーがなんとも心地よく映る。展示自体も魅力的だった。
2014/12/20(土)(酒井千穂)