artscapeレビュー

2015年01月15日号のレビュー/プレビュー

フューリー

映画『フューリー』(監督:デビット・エアー)を見る。反『永遠の0』映画として素晴らしい。涙のネタとして戦争を使う『永遠の0』のような、CG頑張りました、そしてお前ら泣けという過剰な物語をつけることがない。回想も後日談も何もない、戦場のみの描写に終始し、本物の戦車がかもしだす実在感と、ディテールの表現で押し切る超重量級の作品である。『永遠の0』が押し付けるような説教臭い道徳もない。ちなみに、『紙の月』の観客がOLばかりだったのに対し、『フューリー』はほとんど高齢の男性だった。

2014/12/19(金)(五十嵐太郎)

伊東豊雄展 台中メトロポリタンオペラハウスの軌跡2005-2014

会期:2014/10/17~2015/12/20

TOTOギャラリー・間[東京都]

スタディ模型や1/1のモックアップなど、まさにアイデアから実現までのドキュメント展示である。これは間違いなく、伊東豊雄の新しい代表作になるだろう。ヘッド・マウント.ディスプレイによる擬似的な空間体験もいい。着工前と建設途中の二度、現場に訪れたことがあるので、余計すぐに完成した建築を見に行きたくなった。




展示風景


2014/12/19(金)(五十嵐太郎)

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リー・ミンウェイとその関係展

会期:2014/09/20~2015/01/04

森美術館[東京都]

参加型、いわゆるリレーショナル・アートということで、作品はそれ自体のカッコよさや美しさで勝負するのではなく、想像を働かせて鑑賞するタイプのものが多い。今回は関連展示を設け、ジョン・ケージ、鈴木大拙など、過去の作家、音楽家、学者、同時代の日本人アーティストも、一緒に紹介しているが興味深い。こうして見ると、とくにイヴ・クラインの先見性が浮かびあがる。


展示風景


2014/12/19(金)(五十嵐太郎)

山部泰司 展「溢れる風景画 2014」

会期:2014/12/16~2014/12/28

LADS GALLERY[大阪府]

山部泰司が近年手掛けている絵画作品が実に興味深い。それは、洪水に襲われた森林を描いたものだ。なぜ興味深いのか。洪水が東日本大震災の津波を連想させるからではない。作品に用いられている空間表現が非常にユニークだからだ。このシリーズでは一点透視などの西洋絵画的な遠近法ではなく、下から上に行くほど遠景となる積み上げ遠近法が採用されている(ように見える)。しかし、描かれた樹木の大きさはまちまちで、絵画空間の中にいくつもの遠近がランダムに存在している。まるで遠景と近景を無秩序にパッチワークして、全体としてなんとなく積み上げ遠近法らしくまとめたかのようだ。また、本作は最初の段階では複数の色彩による抽象的な線描から始まり、白地で塗りつぶしては描く行為を幾度も繰り返しながら徐々に構図が固まっていく。その過程がハーフトーンの白地を透かして垣間見えることにより、図柄の変遷や時間の堆積というもうひとつの奥行きも表現されているのだ。イメージはすべて赤茶か藍色系の線描で表現されており、西洋古典絵画の手稿を連想させる点も想像力を喚起させられる。本展では、200号×2の大作1点(画像)、200号の大作2点を含む36点が出品された。この精力的な作品点数も、いまの彼の充実ぶりを物語っている。

2014/12/20(土)(小吹隆文)

フィオナ・タン──まなざしの詩学

会期:2014/12/20~2015/03/22

国立国際美術館[大阪府]

中国系インドネシア人の父とオーストラリア人の母のもと、インドネシアで生まれ、オーストラリアで育ち、その後ヨーロッパに移住して現在はオランダのアムステルダムを拠点に制作活動を行なうフィオナ・タン。本展は、彼女の初期から近年の映像作品14点を紹介する大規模展だ。彼女の作品は、初期作品では、坂道を転げ落ちる様子を捉えた《ロールI&II》(1997)や大量の風船で身体を浮かせる《リフト》(2000)など、運動や身体感覚にまつわるものと、《興味深い時代を生きますように》(1997)など、自らの複雑な出自をテーマにしたドキュメント調のものがあり、それが近年になると《ライズ・アンド・フォール》や《ディスオリエント》(ともに2009)など記憶をテーマにした作品へと移り、《プロヴナンス》(2008)、《インヴェントリー》(2012)では美術史への言及もテーマになっている。筆者自身は彼女の作品に不慣れなためか、テーマが見えやすい初期作品に共感を覚えた。ただ、彼女の作品は鑑賞に多大な時間を要するため、取材時は各作品を部分的に見るしかなかった。もう一度会場に赴き、たっぷりと時間を取って作品と向き合うつもりだ。そのとき、自分にとってのフィオナ・タン像が初めて明確になるだろう。そうした作品論とは別に、会場構成の巧みさも本展の見どころだ。映像作品では光漏れや音漏れをいかに回避するかが問題となる。本展では暗幕を使わず、展示室へのアプローチを長く取る、入口の壁を斜めにするなどして、洗練度の高い空間と作品の独立性を両立していた。この点は高く評価されるべきである。

2014/12/20(土)(小吹隆文)

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2015年01月15日号の
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