artscapeレビュー

2015年01月15日号のレビュー/プレビュー

フォートワース

[アメリカ合衆国テキサス州]

アメリカのフォートワースへ。高速を使って、空港から市内まで見える風景は、高いビルがなく、空が大きく見えるような平らな土地と、起伏のある土木インフラが続く。おそらく、良い景観を狙ったのだろうが、橋脚や壁などの土木構築物の表面が、すべて土っぽい色で塗装されていたり、似た色の擬岩、擬石積でおおわれている。施工がラフなのはともかく、デザインとして褒められない。ダウンタウンは、こじんまりとしてこぎれいで、あまり人気はないが、サンダンス・スクエアだけは賑わう。ハリボテっぽい、あるいは書き割りのような建物も散見されるが、実は復元や修理によるものが多い。端正なアールデコや、20世紀初頭の建築がよく残っている。様式建築系では、もこもこしたルスティカ風の仕上げを過剰に使うのが、この地域の好みのようだ。日本の地方都市より、全然豊かな建築資産を維持している。現地に到着して泊まるホテルが、実はケネディ大統領が暗殺された前夜に宿泊していたところと知って驚く。


左:AMCパレス 右:フラットアイアンビル


2014/12/26(金)(五十嵐太郎)

森淳一「tetany」

会期:2014/12/03~2015/01/10

ミヅマアートギャラリー[東京都]

少女像が3体。1体は大きく両手を掲げた立像で、1体は両手両膝を床につき、はいつくばって顔を横に向けている姿。奥の部屋のもう1体は上半身のみの小像で、ノースリーブの服に色彩が施されている。いずれも木彫で、眼球は白い大理石?が嵌められてるが、黒目はないので不気味な印象を与える。これはいったいなんだろう? ほかに絵画が2点、いずれも正方形の画面にほぼモノクロームで50-60年代のアメ車が描かれていて、はぐらかされる。解説によれば「ある画家が描いた少女、60年代アメリカを舞台にしたテレビドラマの登場人物、哲学者の言葉、本の中に出てきた写真など」さまざまなイメージや情報を昇華したものだそうだ。しかしこの少女、どっかで見たことあるなあと思ったら、リンダ・ブレア演じる「エクソシスト」の少女ではないか。

2014/12/26(金)(村田真)

《キンベル美術館》、《フォートワース美術館》

[アメリカ合衆国テキサス州]

ルイス・カーンの《キンベル美術館》(1972)は、40年以上がたったと思えない新鮮さで、今なお比類なき空間である。いや、用途を超えた力強い形式性の反復ゆえに、これがもっと昔から存在する廃墟のリノベーションのように見える。また当時から変わっていない可動壁のシステムや設備のおさめかたがおもしろい。
ただし、天候の状況やスポット照明のせいか、光の効果はあまり感じられなかった。翌日に再訪すると、今度は天気と時間帯がよく、光の奇蹟に遭遇することができた。手前の水面に低い角度で射し込む西日が反射し、外ヴォールト内部だけでなく、スリットを通じて、内部の天井に届き、映像のような、ゆらめく光の帯が発生する。それがさらにもう一度反射して、床に届く。またヴォールト同士の隙間をぬって、玄関床に鋭い光の弧を描く。水面をバウンドした光が奥のカフェの壁に到達する。ガラス面の反射によって、光と逆方向の外部に落ちる影。トップライトからの採光と絡みあう別の光。こうした様々な現象が時間の経過とともに、刻々と光の状態が変化していく。光が差し込む角度を考えると、夏や午前では体験できないかもしれない。


左:水面をバウンドした光とその反射 右:展示室内の光


2013年にオープンしたばかりの《キンベル美術館》のレンゾ・ピアノによる《新棟》(2013)は、カーン棟と中心軸や幅をそろえ、空間単位の反復も類似させながら、彼らしい軽やかな明るい建築になっている。透明性が高く、普段から見えるホール、屋根に緑を配し、埋めたように見せる奥のヴォリュームなどは現代的である。カーンへのリスペクトと、自身の個性を巧みに融合させた知的な作品だ。このプロジェクトをピアノに依頼したのが、お見事である。ともあれ、キンベル美術館では、コレクションの展示が完全無料で、太っ腹だ。カーン棟では、古代彫刻、イタリア、スペイン、フランス、イギリス、近代絵画、建築の各段階のスタディ模型の展示、ピアノ棟では、アフリカ、アジア、企画展、ホールが割り当てられている。ちなみに、カーンの最初期案は、むしろアーチが足下で連続していた。

レンゾ・ピアノによる《新棟》



左:キンベル美術館初期案 右:カーン棟とピアノ棟



カーター美術館から2つのキンベルと街をのぞむ


安藤忠雄の《フォートワース美術館》(2002)は、想像以上にデカく、外に対してL字配置で閉じて、内側の水面からの見えを勝負する。住吉の長屋ほか、過去作の要素を引き延ばしながら、大空間において再構成したかのようだ。展示は近代と現代美術が中心である。ジェニー・ホルツァーや屋外のセラが良い。企画では、シンディ・シャーマン、キース・ヘリング、バスキア、ゲリラ・ガールズなど、1980年代のアメリカ現代美術を回顧していた。

フォートワース美術館

2014/12/27(土)(五十嵐太郎)

Stolen Names

会期:2014/12/19~2014/12/27

京都芸術センター[京都府]

「作品に関わるおよそ全ての情報(あるいは手がかり)が盗まれた状態にあ」り、作品がただ作品として、会場に混在するというコンセプト。床には漢詩が書かれ、粘土による造形が置かれている。または、モニターに映し出される集団行動、なにものかの資料などなど。そもそもタイトルしかテキストがない中、まったく心にひっかからない自分が居て、コンセプトにある「作品と向き合う時、いつから私たちは答えを求め、手がかりを探し続けるようになったのだろう」状態に。しかし、その空間自体の魅力や展覧会としてのトータルのおもしろさにまでたどり着くことが出来ない(と感じ)退室してしまった。会期中、名前を語らない放送室のようなプロジェクトなどが関連企画として行われ、ウェブサイト(http://stolen-names.tumblr.com/)にて公開されている。会場風景、ウェブ上には2時間強の映像作品もあり、試みとしては、ここを見るだけでもけっこう満足。では会場では、どう味わえば良かったのだろう。会場にいたのは短い時間、瞬く間の記憶としてだが、もう少し私の心に残ってくれそうではある。

2014/12/27(土)(松永大地)

《エイモン・カーター美術館》、《フォートワース・コミュニティ・アーツ・センター》、《フォートワース科学歴史博物館》

[アメリカ合衆国テキサス州]

エイモン・カーター美術館(1961)へ。ここの手前のテラスから、キンベル美術館やフォートワースの街を一望できる。フィリップ・ジョンソンが設計したモダンだけど、古典風味の建築で、リンカーンセンターのデザインに近い。が、最大の特色は、テキサスのシェルストーンによる壁・柱・天井だろう。近づいて見るとよくわかるのだが、ぎっしりと貝殻の跡がある石のテクスチャーは驚くべき存在感だ。アメリカの芸術を紹介する美術館だが、オキーフ、ハドソン・リバー派、レミントンとラッセル、ちょうど企画展をしていたジョージ・ビンガムなど、西部の方に焦点をあてる。キンベルと同じく、ここも無料だ。日本も企業や財団などによる私立美術館は少なくないが、高い入場料のものばかりである。

エイモン・カーター美術館(記事左上も)


壁面のテクスチャー



《フォートワース・コミュニティ・アーツ・センター》(1954)は、バウハウスのヘルベルト・バイヤーによって設計された。彼はグラフィック・デザインで有名だったが、建築も手がけていたとはあまり知らなかった。いわゆるモダニズムだが、地元の建築による同じテイストの増築がなされている。安藤建築が新しくできるまでは、フォートワース近代美術館はここにあったようだ。

フォートワース・コミュニティ・アーツ・センター



さらに隣の《フォートワース科学歴史博物館》(2009)は、レゴレッタの設計である。メキシコ色が強いこの地ならではのセレクションだろう。目がさめるような鮮やかな色の組み合わせで、空間を構成し、バラカン風の中庭や、カーン風(?)の連続ヴォールト天井を組み込む。科学の展示は、わかりやすく楽しい。エントランスの吹抜けでは、911の世界貿易センタービルの残骸である焼けた鉄骨を展示している。

フォートワース科学歴史博物館



またその隣の《カウガール博物館》(2002)と《殿堂》(2002)は、一見昔のテキサス・デコ風だが、近くの博覧会のときにつくられたアールデコ建築、ウィルロジャース・メモリアルセンターへのオマージュであり、2002年竣工の新築だった。展示を見て、アメリカの映画におけるカウガールの表象の研究をやったら面白そうと思う。

カウガール博物館


2014/12/28(日)(五十嵐太郎)

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