artscapeレビュー

2013年01月15日号のレビュー/プレビュー

ジョルジュ・ルオー アイ・ラブ・サーカス展

会期:2012/10/06~2012/12/16

パナソニック汐留ミュージアム[東京都]

パナソニック汐留ミュージアムのジョルジュ・ルオー展へ。「I LOVE CIRCUS」のタイトルとおり、彼が愛したサーカスにまつわる絵画を紹介するもの。フランスにおけるサーカスの全盛期に彼がそれを体験した時代性、サーカス小屋の様子もあわせて展示し、室内もそうした仕様でデザインされ、あるモチーフが生まれる社会背景や空間の体験が丁寧に説明されていた。晩年のルオーの作風は、道化師たちの悲哀にキリストのイメージを重ねる。

2012/12/07(土)(五十嵐太郎)

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黒沢美香『「薔薇の人」第15回:鳥図』

会期:2012/12/04~2012/12/07

中野テルプシコール[東京都]

「黒沢美香(それも薔薇の人シリーズ)を見る」というのはダンス好事家の密かな楽しみというもの。「美味いレストランはみんなに教えたいけれど極めつきは別」と一緒で、ただただ黙って堪能したい、ここにいる幸せを噛み締めたい、そんな気持ちにさせられる。そしてこういう絶品の常として、「新たな展開」「新機軸」「歴史を塗り替える」なんて言葉をあてがうことにはたいした意味がない。薔薇の人シリーズは、それ自体が永遠の非常事態なのだから。「ああ、うまいなうまいな、すごいなすごいな、ああここにもこんなアクセントが……にくいな、このっ……」とか独り言をぶつぶつ心に漏らしながら、ただ賞味するだけで幸福なのである。この作品でもこれまでと同様、堂本教子の衣裳がすごい。きちんと気味の悪さを添えながら、黒沢の乙女心を見事にかたちにしている。黒沢の鳥は、手にした長いさおのような腕のようなものとともに、奇怪な感じで舞台に生息する。天井に吊った衣類の塊を突っつき床に落としてみたりなどするなかで、人間の生とは別次元にある鳥の生の不思議な面白さ(黒沢がフライヤーに記した言葉を借りれば「動かない鳥の失礼な大きさと重さ」)が、次々と展開した。

2012/12/07(金)(木村覚)

注目作家紹介プログラム チャンネル3 河合晋平博物館

会期:2012/11/27~2012/12/24

兵庫県立美術館[兵庫県]

樹脂やプラスチック製品などを駆使して、微生物のような“存在物”(=オブジェ)や、バーチャルな生態系をつくっている河合晋平。彼にとって過去最大規模となる本展では、25種類・53点の作品が一堂に会し、彼が長年かけて構築した世界を概観することができた。会場は天井が非常に高く、小サイズの作品が多い河合がこの場所をどう料理するのか注目していたが、彼は六角ワイヤーネットやプラスチックのチューブを駆使して縦方向の広がりを強調したり、吊り下げ型の作品を投入することで問題を解決した。彼のキャリアのなかでも重要な位置を占める個展と言えるだろう。

2012/12/07(金)(小吹隆文)

国立新美術館開館5周年 リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝

会期:2012/10/03~2012/12/23

国立新美術館[東京都]

国立新美術館の「リヒテンシュタイン 華麗なる伯爵家の秘宝」展を見る。有名な画家ルーベンスの作品群はあるが、この展覧会は絵画より、むしろ当時絵と一緒に部屋を飾っていたであろう同時代の家具や工芸品も展示していることがよいと思った。美術館では、絵だけが切り離されて持ち込まれ、純粋芸術とされがちだが、現場では渾然としているからだ。とくに近世以前の作品は、場所が交換可能なホワイトキューブの抽象絵画とは違う。

2012/12/07(金)(五十嵐太郎)

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北井一夫「いつか見た風景」

会期:2012/11/24~2013/01/27

東京都写真美術館 3階展示室[東京都]

北井一夫の写真家としての位置づけはむずかしい。1976年に「村へ」で第一回木村伊兵衛写真賞を受賞しているのだから、若くしてその業績は高く評価されていたといえるだろう。だが『アサヒカメラ』に1974~77年の足掛け4年にわたって連載された、その「村へ」のシリーズにしても、いま見直してみるとなんとも落着きの悪い写真群だ。高度経済成長の波に洗われて、崩壊しつつあった日本各地の村落共同体のありようを、丹念に写し込んでいった作品といえるだろうが、北井が何を探し求めて辺境の地域を渡り歩いているのか、そのあたりが判然としないのだ。とはいえ、これらの写真を見続けていると、たしかにこのような風景をその時代に見ていたという、動かしようのない既視感に強くとらわれてしまう。それは怒りとも哀しみともつかない、身動きができないような痛切な感情に包み込まれるということでもある。
北井の写真には、いつでもこのような、見る者をうまく制御できない記憶の陥穽に導くような力が備わっていると思う。僕にとって、今回の展覧会でそれを一番強く感じたのは、「過激派・バリケード」(1965~68)のパートに展示されていたバリケード封鎖された日本大学芸術学部内で撮影された一連の「静物写真」だった。闘争が長引くに連れて、「封鎖の校舎内は、ストライキ学生の衣食住の場所になり、非日常空間から日常生活の場へと変化した」という。北井はそこで目にした「靴」「ハンガー」「トイレットペーパー」「傘」「謄写版」「洗面台」などを、135ミリの望遠レンズで接写している。僕自身は彼より一世代若いので、これらの事物をバリケード内で直接目にしたわけではないが、その空気感をぎりぎり実感することはできる。日常を、その厚みごと剥がしとるような北井の眼差しのあり方が、これらの写真には見事に表われている。それぞれの時代の日常性を身体化して体現できる仕掛けを組み込んでいることこそ、北井の写真の動かしようがないリアリティの秘密なのではないだろうか。

2012/12/07(金)(飯沢耕太郎)

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