artscapeレビュー
2013年01月15日号のレビュー/プレビュー
天使の森プロジェクト展
会期:2012/11/28~2012/12/08
葵丘 2Fギャラリー[愛知県]
岡崎の葵丘ギャラリーにて、天使の森プロジェクト展のオープニングにあわせてトークに出演した。NPOアースワーカーエナジーの小原淳が、アーティストの土屋公雄と取り組む里山での長期的な活動のキックオフである。土屋らしく、美術と建築と風景が融合していくプロジェクトのイメージが提示されたが、近世につくられたものすごい長さにわたって続く既存の鹿垣の存在感にも驚かされた。これは里山をテーマにしながら、美術に欠けていた2005年の愛知万博で本来行なうべきだったプロジェクトかもしれない。
写真:展示風景
2012/12/01(土)(五十嵐太郎)
快快『Y時のはなし・イン・児童館』
会期:2012/12/01~2012/12/02
光が丘区民センター3階 多目的ホール[東京都]
「地域の児童館とアーティストをつなぎ子どもとまちとアートのコラボレーションを生み出」すことを目的としたプログラムにアーティスト・イン・児童館がある。彼らが企画した本公演は、児童館を舞台にした快快の代表的レパートリーを児童館に集う本物の子どもたちとともにつくりあげるというなんともミラクルな上演だった。7月に近隣の児童館を会場に行なわれたイベント《100%夏休み》をはじめ、何度も子どもたちと接触を繰り返してきた快快。舞台に出演する子どもたちの生き生きとした姿を見て、もともと「つながり」をめぐって精力的に取り組んで来た彼らの本領がここで存分に発揮されていると思い、素直に感動した。快快はゆるい。現代演劇を生真面目に更新しようとしているというより、まるで遊んでいるようだ、少なくともそう見えることがある。彼らを「パーティ・ピープル」と呼ぶ人たちも多い。けれども、そのゆるさこそがたぐいまれな彼らのパフォーマンスの方法なのではないか。とくに今回の上演でそのゆるさが活きていたのは、「夏休みの最後にパーティをする」というシーンで、これまでの『Y時のはなし』上演にはなかった、子どもたちが実際に歌ったり踊ったりの演目を披露した場面だった。演劇の一場であるはずが、リアルな「お楽しみ会」みたい。演目の進むなか、あちこちからかけ声が投げかけられるなど、和んだ雰囲気が絶えない。演劇の完成度に固執する劇団ならば、高校生がフォークギター片手に歌うなんてパートは挿入しないだろう。その瞬間、演劇的テンションはくずれる。けれども、そこに集った人の力が無理なく表われていることに、演劇的完成とは別の感動が生まれもする。演劇を通してなにができるのか。この特別な公演は、演劇それ自体を目的とするだけではなくひとつの手段としてもとらえている(ぼくはそう思っている)快快からの、ひとつの幸福な希有なプレゼントだった。
2012/12/02(日)(木村覚)
須田悦弘 展
会期:2012/10/30~2012/12/16
千葉市美術館[千葉県]
花の彫刻で知られる須田の個展。彼の作品のおもしろさは、極薄の葉っぱや花びらを虫食い穴までそっくり再現する繊細なリアリズムにあるが、それだけならちょっと腕の立つ職人でもできる。彼にとってより重要なのは、それをどこに置くか、どのように見せるかにあるだろう。彫刻そのものは小さく繊細なため、美術館のような大空間に展示するときには、目立たせると同時に作品に触れさせないようにもしなければならず、そのふたつの相反する条件を満足させるための仕掛け(インスタレーション)が必要になる。そこが最大の見せどころだ。最初の展示室にはいくつかの小屋を設け、そのなかで見せていたが、少し慣れてきたころに壁に直接飾り、最後の展示室はとうとう空っぽ。と思ったら、よく見ると床板のあいだや陳列ケースの隅っこなどにひっそりと草花を咲かせていることに気づくという、心憎い演出だ。したがって観客は作品を鑑賞する前に作品のありかを探索しなければならず、それを楽しむのが須田作品に近づく第一歩となる。その下の階では「須田悦弘による江戸の美」と題し、須田自身が千葉市美のコレクションから選んだ浮世絵などを展示しているが、ここにもちゃっかり須田の作品が陳列ケース内に乱入している。思わず笑ったのが、数粒の米。木でできたコメ。じつは須田の彫刻のいちばんのおもしろさは、植物を植物素材で彫るというトートロジカルなしぐさにあると思う。比べるとしたら、木で石と台座を彫った橋本平八の《石に就いて》か。
2012/12/02(日)(村田真)
勝田徳朗──タマゴから…生える
会期:2012/11/16~2012/12/05
ギャラリー睦[千葉県]
千葉市美からは少し離れているが、千葉駅からは徒歩10分ほど。住宅街に立つ民家の1階を改造したギャラリーだ。なんでそんなところまで行ったのかっていうと、勝田が美大の同窓生だったからだ。だから友達ネタです。勝田は学生時代は理論家で鳴らしたが、卒業後は高校の美術教師をやりながら時々画廊を借りて個展を開いてきた。以来35年、アーティストとして一線で活躍しているわけではないので、アートシーンに一石を投じるような作品を発表することはないが、一生活者として身近なモチーフ(タマゴ)を身近な素材(流木)を使って無理のない範囲で制作し続けている。作品形態は絵画、彫刻、インスタレーションとさまざまだが、モチーフはすべてタマゴ。いまさらアーティストとして自立しようなどとは考えてもいないだろうが、小品は何点か売れている。もっとも感心したのは、ぼくがいた20~30分ほどのあいだに、けっして便利な場所ではないのに何人もの客がひっきりなしに訪れていたこと。ぼくも含めて、彼らの多くは作品を見に来たというより本人に会いに来たんだろう。彼の人柄も大きいが、こういう美術の使い方もあるんだと再認識。というより、それが美術の使い道の大半であり、そっちのほうが健全なあり方なのかもしれない。
2012/12/02(日)(村田真)
「ルーベンス──栄光のアントワープ工房と原点のイタリア」展 記者発表会
会期:2012/12/03
ベルギー王国大使館[東京都]
最近、大がかりな海外美術展はその国の大使館で記者発表を行なう例が増えてきた。スペイン大使館での「ゴヤ展」や「エル・グレコ展」、フランス大使館での「ルーヴル美術館展」、イタリア大使館での「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」や「ラファエロ展」などだ。今回の「ルーベンス展」は初訪問となる麹町のベルギー大使館。と書いてきて、みんなカトリック国であることに気づいた。偶然か? しかしアメリカやオランダやロシアもずいぶん展覧会を開いてるのに、大使館で記者発表したなんて聞いたことないぞ。単にぼくが招かれてないだけかもしれないが。記者発表にはなぜか先日「ラファエロ展」の会見でホスト役を務めたばかりのイタリア大使も臨席していた。2013年がイタリア年ということもあるが、ドイツに生まれフランドルで育ったルーベンスは、イタリアで修業し画家としての一歩を踏み出したからね。その後も彼は、画家としてだけでなく外交官としてスペイン、フランス、イギリスなどヨーロッパ各国を飛びまわり、元祖「ひとりEU」を演じたのだ。そのせいでもないだろうが、2013年はルーヴル美術館でも「ルーベンス展」を計画中という。日本展は3月9日から渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムにて。
2012/12/03(月)(村田真)