artscapeレビュー
2014年01月15日号のレビュー/プレビュー
乙女デコ&京都モダンのデザイナー:小林かいち展
会期:2013/10/03~2013/12/24
竹久夢二美術館[東京都]
大正後期から昭和初期にかけて京都・さくら井屋が版元となった絵葉書・絵封筒のデザインでのみ知られ、数年前までは謎のデザイナーであった小林かいち。京都での展覧会をきっかけに2008年に遺族(次男)が名乗り出て、大正末期に亡くなったとされていた画家が京都で着物の図案を手がけていた小林嘉一郎(1896-1968)であることがわかった。かいちの作品に関心が持たれるようになったのはこの20年程のことであり、これまでに開催された展覧会や論考を見ると、謎であったデザイナーの姿が一気に具体的な人物として描かれるようになった様はとても興味深い。謎の人物であった時期には、京都アール・デコのデザイナーとして、同時代の他のデザイナーたちの作品などの文脈においてその作品の説明が試みられていた。人物が判明したことで、かいちが京都市立絵画専門学校で学んだことや住んでいた場所などがわかってきた。今回の展覧会では、保科美術館のコレクションを含めた作品を紹介し、描かれたモチーフを読み解くと同時に、かいちとその作品を育んだ同時代の京都を紹介している。人物が同定されたとはいえ、かいちとその仕事にはまだまだ多くの謎が残されているという。次男・嘉寿氏が生まれた1944年には、かいちはすでにさくら井屋の仕事を止めており、遺族もかいちがデザインを手がけていたことは知らなかったという。彼がモダンな図像がどのようにして生み出されたのか。何をイメージ・ソースとしていたのか。絵葉書・絵封筒のデザイナーとしてのかいちの謎はむしろ深まったのかも知れない。[新川徳彦]
2013/12/19(木)(SYNK)
川瀬知代「透明な不透明」
会期:2013/12/07~2013/12/30
プリンツ[京都府]
カフェ併設のギャラリー空間にて。これまでの作品のモチーフとなっていた架空の植物のような、虫のような美しい水彩ドローイングのにじみの部分が、実際にトレーシングペーパーや折り紙、透き通る布、アクリルの板、網(?)という物に置き換わって絵の外に染み出てきているような展示。装飾的でもあるが、テーマである「透明」の空間インスタレーションとしてできあがっていたように思う。
2013/12/19(木)(松永大地)
森山大道「モノクローム」
会期:2013/11/23~2014/12/27
武蔵野市立吉祥寺美術館[東京都]
森山大道はこのところずっと、デジタルカメラで街をスナップした写真を新作として発表し続けている。だが、カラー写真の「ペラペラとした」色味を追い求めていると、時折フラストレーションに襲われるようだ。個人的な作業を写真集として継続的に発表している『記録』(AKIO NAGASAWA PUBLISHING)でも、no.23はロンドンのカラー・スナップだったが、南仏やパリを撮影したno.24ではざらついた粒子を強調したモノクローム写真に回帰していた。2008~12年の作品を集成して月曜社から刊行した写真集も、一冊は『カラー』、もう一冊は『モノクローム』というタイトルである。つまり森山のなかには、カラーとモノクロームの両方に引き裂かれていく心性が共存しているのではないだろうか。
今回、武蔵野市吉祥寺美術館で開催された「モノクローム」展は、その写真集『モノクローム』からピックアップされた写真群と、「狩人」「光と影」「サン・ルゥへの旅」など1960~90年代の旧作を混在させた展示だった。それら59点のモノクローム作品を見ると、白と黒のコントラストに還元されたイメージに対する、森山の強いこだわりがはっきりと見えてくる。
では森山にとって、「モノクローム」とは何なのだろうか。それはカラー写真の表層的で、具体的な現実世界の見え方に対する、強烈な異議申し立てではないかと思える。むろんモノクロームでもカラーでも、目の前の現実に潜む微かなズレを鋭敏に感受する能力と、画面構成における正確無比なグラフィック的な処理能力に違いはない。だが、カラーよりはモノクロームの方が、被写体をより「エタイの知れない異界の破片」として再構築しやすいのではないだろうか。思えば、彼は写真家としてスタートした頃から、撮影を通じて、現実のなかに埋め込まれた異界、彼の言う「もう一つの国」を探求し続けてきた。その営みにおいて、やはりモノクローム写真が最強かつ不可欠の武器であることが、今回の展覧会でも明確に証明されていたと思う。
2013/12/19(木)(飯沢耕太郎)
シェル美術賞展2013
会期:2013/12/11~2013/12/23
国立新美術館[東京都]
698人による1,001点の応募作品から、7点の受賞作品を含む52点の絵画を展示。併せてこれまでの受賞者のなかから4作家を選び、「シェル美術賞アーティスト・セレクション」として数点ずつ紹介している。入選したとはいえ、大半は技術的に未熟かどこかで見たことあるような絵ばかりだが、いくつか興味をそそる作品もあった。吉村正美《死角》はブロック塀を背景に、絡み合ったグラフィティのような線描から逃れる後頭部に顔のついた少年を描いたもの。と説明してもわからないだろうけど、そのわけのわからなさと稚拙な描写がうまく噛み合っている。田中駿《なにも聞こえない》は、まるでヨゼフ・ボイスの脂肪作品のような黄色い物体がへばりついた部屋のコーナーを描いたもの。ぶっきらぼうで謎めいた主題もいいが、アクリル板に油彩というちょっと変わった形式にも注目したい。山橋美穂《ポートレート》は、青い画面から大きな顔を浮かび上がらせ、上下に白色で文章を記したもの。タイトルに「セルフ」はついてないが、文章込みで一種の自画像と見ることができるかもしれない。「セレクション」のほうでは、ピンヒールやペディキュアを施した足を描いた松川朋奈のフォトリアリズム絵画が出色。タイトルも最大1200字ほどの告白文になっていて、これはもう絵がどうのこうのというより、足フェチ全開の別世界。
2013/12/20(金)(村田真)
日本のデザインミュージアム実現にむけて展
会期:2013/10/25~2014/02/09
21_21デザインサイト[東京都]
21_21は2007年の開館以来23の企画展を打ってきたという。これら一つひとつを小さなブースにまとめ、「身体は五感」「手仕事の国」「人に笑いを」「デザインは贈物」「自然に学ぶ」などのコピーをつけて紹介している。もともと21_21は「デザインミュージアム」実現のワンステップとして想定されているので、これまでの活動を振り返り、あらためてデザインミュージアムについて考えようということらしい。それにしても広大で多岐にわたるデザインをどのようにミュージアムで見せていくのだろう。ファッション、プロダクト、グラフィックといった従来のジャンル別か、時代順か、それともいくつかキーワードを設けて展示するのか。いってみればデザインミュージアムをいかにデザインするかが、このミュージアムの核心になりそうだ。
2013/12/20(金)(村田真)