artscapeレビュー
2014年01月15日号のレビュー/プレビュー
山田はるか個展「私はあなたに命をあずけた」
会期:2013/12/06~2013/12/10
素人の乱12号店「ナオナカムラ」[東京都]
セクシュアリティーやジェンダーをテーマとするアーティスト、山田はるかの個展。4人のメンバーを自ら演じ分けたヴイジュアル系バンド「華妖.viju」のミュージックビデオ《愛の水中花》および《人形の家》のほか、岡崎京子のマンガ「ヘルタースケルター」を引用した《helter-skelter》、さまざまな女性が理想の男性像になりきる写真シリーズ《男想》など、これまでの作品を網羅的に展示した。
山田の真骨頂は、作品はもちろん空間の細部まで徹底的につくり込む精度にある。「華妖.viju」のミュージックビデオは音楽や映像の質が非常に高いばかりか、会場には数々の関連グッズも併せて販売されていた。暗い空間にミラーボールが回転するなかで映像を視聴していると、まるで「華妖.viju」のオフィシャルショップを訪れたかのように錯覚するほどだ。一切の妥協を許さず、完膚無きまで仕上げる気骨が清々しい。
異装によるセルフポートレイトという点では、森村泰昌はもちろん、澤田知子や浅田政志など類例は多い。けれども山田が秀逸なのは、それを大衆文化と動画によって見事に表現したからだ。《愛の水中花》と《人形の家》を見ると、山田がそれぞれのキャラクターや内面を的確に演じ分けていることがよくわかる。
なかでも《男想》は、一般女性を被写体にしながら彼女たちの妄想を写真と文章によって視覚化した、他に類例を見ない傑作である。社会的に抑圧されがちなさまざまな欲望が肯定的に引き出されているばかりか、アーティスト個人の内面や欲望というより、一般女性のそれらを探究している点で、考現学的な要素も含まれているところが素晴らしい。
大衆文化や動画、そして考現学。山田がこれらを手がかりにしてセクシュアリティーやジェンダーを探求しているのは、これらの今日的な問題がそうした水平軸に顕現していることを見抜いているからではないか。
2013/12/09(月)(福住廉)
隈研吾建築都市設計事務所《三里屯SOHO Sanlitun SOHO》ほか
[中国・北京市]
北京へ移動し、ルーバーをさまざまなパターンで使う隈研吾による三里屯SOHO、空中でダイナミックに各棟をつなぐスティーブン・ホールの《当代MOMA》の集合住宅、ザハ・ハディドによる《望郷SOHO》と《銀河SOHO》、ユニークな形態のMADによるビルなどを見学した。ザハはさすがのランドマーク力である。《銀河SOHO》の方、流動的な内部空間は想像以上によかった。清華大学にてレクチャーを行なった後、古い教会をリノベーションした場で、CBCの歓迎会。
写真:上から、ザハ・ハディド《銀河SOHO Galaxy SOHO》、隈研吾建築都市設計事務所《三里屯SOHO Sanlitun SOHO》、スティーブン・ホール《当代MOMA LINKED HYBRID》
2013/12/09(月)(五十嵐太郎)
重慶市建築
[中国・重慶市]
飛行機で重慶へ。山に囲まれ、激しく凸凹の多い地形でほとんど平地がないところに高層マンション群が続く風景は、香港を想起させる。崖地ゆえに、建物の屋上が上部の道路から続くテラスになるなど、独特な建築が生まれ、メイド・イン・重慶のリサーチができそう。重慶大学のレクチャーでは、筆者の関わった21世紀の展覧会を軸に、日本の若手建築家の動向を紹介した。
2013/12/10(火)(五十嵐太郎)
四川大地震被災地
[中国・四川省]
四川大地震の被災地へ。北川のエリアは、震災、川の氾濫、土砂崩れが重なり、現地再建が断念されたため、廃墟化された街が丸ごと保存され、今は観光地になっている。近くの地震紀念館は、社会主義リアリズムの彫刻や絵画、あるいはヒロイックな音楽などを動員し、救助や復興の様子を紹介しつつ、復興を通じた国家の団結を提示していた。そのほか、街ごと移住したニュータウンの北川永昌や現地再建の少数民族の集落などもまわる。いずれも真新しく、テーマパークのように、伝統的なデザインを建築の外観に散りばめていた。
2013/12/11(水)(五十嵐太郎)
現代のプロダクトデザイン──Made in Japanを生む
会期:2013/11/01~2014/01/13
東京国立近代美術館[東京都]
「現代のプロダクトデザイン」というタイトルから最初は家電や自動車などのいわゆる「工業デザイン」を想像したが、そうではなかった。木や金属、陶磁器、布を素材とした日用品。展示品を見ただけでは工芸の展覧会と言われてもわからない。工芸との違いは、形を決める人とつくる人が異なること。デザイナーがデザインし、製造業者がつくる。一般的なデザインのプロセスである。他方でこれらは一般的な工業デザインとも異なる。すなわち、いずれも形以上に、素材と極めて密に関わる仕事なのである。なぜなのかと言えば、伝統工芸あるいは地場産業の振興とデザイナーとが深くかかわっている事例だからだ。伝統工芸・地場産業振興のためにデザインを活用するという試みは、新しいものではない。しかし、諸山正則・東京国立近代美術館主任研究員が指摘しているように、1990年代のそれはうまくいったとは言えない。なにが問題であったかという点は、その後も持続している喜多俊之の仕事と対比すればわかりやすい。喜多が使い手=市場を徹底的に分析したうえで地場産業の技術を援用するという手法を用いたのに対して、外部から投入されたデザインの多くは表面的・一過性に終わり、つくり手と使い手を結びつけるものにならなかったのである。大メーカーとの仕事であれば、マーケティング、製造、流通・販売は専門の部署に任せることができる。デザイナーは形だけをデザインすれば済んでしまうかもしれない。しかし、小規模な製造業者ではそうはいかない。デザイナーに求められる領域はずっと広い。今回の展覧会で紹介されているデザイナーたちの仕事の特徴は、つくり手と使い手を結びつける媒介としてのデザインの役割を強く意識している点にある。[新川徳彦]
2013/12/12(木)(SYNK)